タクシー運転手の稼ぎは本当に増えたのか
ブルーカラーが稼げるようになったという話のなかで、注目を集めているのがタクシー運転手の収入です。2025年11月7日付けのNewsPicksでは、「タクシーが『稼げる仕事』に化けていた」という記事が掲載されました。
この記事では、大阪のあるタクシー運転手が「夜勤も含めた週3日間(24時間)の勤務シフトで、安定して月商100万円をキープ」し、その会社のエリア900人中のトップ4位まで上り詰めたと紹介しています。この運転手はタクシー配車アプリ経由の売上が90%以上を占めており、効率的に顧客を獲得しているとのことです。
しかし、これはあくまでも一例に過ぎません。実際のところ、タクシー運転手の平均年収は2024年時点で全国平均417万円となっており、10年前の302万円から38%ほど上昇しています。それでも先の大阪の運転手ほどの高収入を得ている人は少数派です。
この運転手が高収入を得られている理由としては、①東京や大阪などの首都圏で働いていること(東京の平均年収は502万円)、②タクシー配車アプリを活用していること(効率的に客を獲得でき、迎車料金やデジタルチップも加算される)、③デジタルデバイドがあること(アプリを使いこなせる若い世代が有利)などが考えられます。
結論として、タクシー運転手の収入が増えたのは事実ですが、それが「誰でも高収入が得られる」ということにはならないのです。
AIに代替される仕事と残る仕事
ブルーカラーの仕事が全て将来性があるわけではありません。たとえばタクシー運転手については、アメリカや中国ですでに自動運転タクシーが実用化されつつあります。アメリカでは自動運転技術開発企業「ウェイモ」の自動運転車は2000台が走行しており、東京でも試験走行が始まっています。
また、アマゾンのような大企業は、ホワイトカラーだけでなくブルーカラーの人員も削減しようとしています。アマゾンは世界に153万人の社員を抱えていますが、そのうち約120万人が働く物流センターでは、ピッキング、梱包、搬送などの作業をロボットが担うプロジェクトが進行中です。
このような状況を踏まえると、単に「ブルーカラーは稼げる」と一括りにするのは適切ではありません。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジェイコブ・シャール教授が2025年10月に発表した論文によると、AIやロボットに代替されやすい仕事かどうかは、以下の4つの観点から判断できるとされています:
1. 人によって成績のバラツキが大きいかどうか
2. 言語化できない暗黙知がどれだけ求められるか
3. 学習データが豊富かどうか
4. 現在のAIと人間との能力差がどれだけあるか
これらの指標に基づくと、アマゾンの物流センタースタッフのような標準化された作業は代替されやすい一方、熟練の職人技のような暗黙知を必要とする仕事は代替されにくいと言えます。














