「ブルーカラービリオネア」現象の背景

アメリカでは「ブルーカラービリオネア」という言葉が話題となっています。AIの進化によって弁護士やエンジニアといったホワイトカラーの仕事が減少する一方で、配管工や空調の修理技師といった「手に職のある人たち」が高収入を得られるようになっているのです。

大学を卒業しても仕事が見つからない若者が増えるなか、技能職は引く手あまたの状況です。職業訓練校に入学する人も増加しており、トランプ政権も短期の資格プログラムに奨学金を出すように制度を変更しました。

なかでもアメリカで最も稼いでいるとされるはエレベーターの設置や修理を行う技師で、平均年収1600万円ほどにもなるということです。AIには真似できない「人の手による技術」が、現在非常に価値あるものとして見直されているのです。

この現象について、2025年11月2日に日本経済新聞が「米国でブルーカラービリオネア現象、AI発展で潤う肉体労働者」という記事を掲載し、大きな反響を呼びました。

ブルーカラー人気の実態

では、なぜブルーカラーの仕事に注目が集まっているのでしょうか。その背景にあるのは生成AIの普及です。

アメリカの失業率は全体では4%台前半で安定していますが、20歳から24歳の若年層に限ると、2024年12月の7.5%から2025年8月には9.2%まで上昇しています。企業が「大卒の新人」を採用しなくなっていることで、若者が職を得られなくなっているのです。

ChatGPTやGeminiなどの生成AIは、会議の議事録作成やメール作成、データ入力、資料作成など、これまで新卒の若手が担当していた業務を代替するようになっています。特に大きな変化が見られるのはプログラマーやエンジニアの分野で、AIがコードを書けるようになったことで人間の必要性が低下し、リストラが進んでいます。

こうした状況を後押ししているのがアメリカのトランプ政権です。トランプは有名私立大学への助成金カットを検討する一方、ブルーカラー育成を支援しています。政府の奨学金「ペル・グラント」について、2026年から2027年度にかけて、職業訓練などの短期資格取得プログラムも支給対象に加えることを決めました。

その結果、職業訓練学校への入学者は急増しており、2025年春は、配管工や大工などの技術を習得する職業訓練校の入学者数が前年から12%増加しています。