刑法190条と憲法20条1項――葬祭の自由と公共の福祉

事件現場となった福岡市博多区のアパート

弁護側の論旨
弁護人は、刑法190条が憲法20条1項により保障される葬祭の自由を過度に制約し、同項に違反すると主張した。

福岡高裁の判断
福岡高裁は、まず葬祭行為の中には憲法20条1項により保障される宗教的行為に当たるものもあることを認めた。

しかし、信教の自由の保障も絶対無制限のものではなく、社会的活動を伴う宗教的行為は公共の福祉により一定の制約を受けると指摘した。

裁判所は、最高裁2023年3月24日判決(以下「2023年判例」)から刑法190条について
「社会的な習俗に従って死体の埋葬等が行われることにより、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情が保護されるべきことを前提に、死体等を損壊し、遺棄し又は領得する行為を処罰することとしたものと解される」
としたうえでこの保護法益ないし立法目的は、十分な合理性と必要性を有していると認められるとした。

また、刑法190条の「遺棄」は、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為であるところ、処罰対象はこれに該当する行為に限られ、これに該当しない葬祭等の行為は禁止されていないことなどを併せ考慮すると、刑法190条が憲法20条1項に違反しないことは明らかであるとした。