愛国主義と現実の境界線
サイバー上の犯罪行為は中国に限ったことではありませんが、中国の巨大人口という背景に加え、都市部では日本をはるかに凌ぐほどネットに依存した社会になっている点がポイントです。
さらに、中国のサイバー攻撃は、外国との安全保障問題にも及んでいます。中国政府系のハッカー集団「ソルトタイフーン」が、世界各国の重要インフラなどを標的にしているとされ、盗まれた情報がスパイ活動に使われている疑いもあります。
危惧されるのは、こうした動きがニュースとして外国から中国に逆流し、「勇ましい中国」「果敢な中国」といった歪んだ自画像になってしまい、ネット空間での攻撃がさらに激化していることです。こうしたネット上の暴力は、国内のプロ・サッカー選手のラフプレーやサポーター同士のトラブルなど、「実際の暴力」に影響しているという中国の評論家の分析もあります。
ネット社会としては日本を先に行くともいえる中国。現実と非現実の境界線が見えなくなっているのかもしれません。ここでも、愛国意識に結びついた中国社会の病巣を見て取れるようです。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める