ヒガンバナの蜜は貴重なエネルギー源

(東洋産業 大野竜徳さん)
「クロアゲハは、羽化してから数週間〜1か月ほど生き、蜜を吸いながら交尾・産卵を行います。ヒガンバナの花期はちょうど秋世代のチョウが活動する時期と重なり、花の蜜は彼らにとって貴重なエネルギー源。

写真のように赤い花に黒いチョウが訪れる姿は、自然の生態系がつくり出す秋の美しい景色の一つです。

さらに、近縁種のカラスアゲハやミヤマカラスアゲハは『カラスの濡れ羽色』のような美しい青緑の光沢を持ち、光の角度によって翅がキラキラと輝きます。カラスアゲハの方がやや山地性で、山里や渓谷のヒガンバナに現れると、その景色は一層ドラマチックです。

チョウは長生きするほど翅が欠けたり破れたりしますが、それは鳥やカマキリといった捕食者に襲われながらも生き延びた証拠。ボロボロになった翅で不器用に、しかしなお優雅に飛び回り蜜を吸う姿は、自然の中で懸命に生きる姿です。

チョウの仲間は進化の中で、捕食者におそわれても生き残れるように捕食者除けに派手な模様や少々傷ついても大丈夫な大きな翅を獲得したとされます。

鳥についばまれた痕跡は、ビークマークと呼ばれる専門用語もあり、この名誉の勲章がついたチョウは捕食者から命からがら逃げのびて生き残ったもので、よくある姿なのです。見かけたらそっと見守ってあげてください。

ちなみに、アゲハチョウは岡山とも深い縁があります。江戸時代に岡山藩を治めた池田家の家紋『備前蝶』はアゲハチョウをかたどったもの。

華麗に舞うアゲハは、武家にとって優雅さや繁栄を象徴する存在でした。今も岡山県内の寺社や史跡、屋根瓦などで家紋の蝶を探すことができます」