祖父の経営に抱いていた“ある疑問”
彼はおじいちゃんっ子だったらしく、祖父と同時代を生き抜いてきた予期せぬ訪問者に興味津々で、矢継早に質問を繰り返した。そして「祖父の顔を見てやって下さい」と写真を持ってきてくれた。
「うわ~、お久しぶりです」

春男さんは写真に向かって話しかけていた。ここから、春男さんの記憶が呼び覚まされると同時に、祖父の経営の疑問点の解明に向かっていくことになった。
当時の社長は、春男さんに会って話をしているうちに、その語学力に驚嘆したという。英語ならまだしも、ロシア語がペラペラなのだから。
シベリアで抑留されていた時に、言葉を必死になって覚えた事実を伝えると、さらに感心し、春男さんに興味を抱いていった。そして、何度か宴席を共にするうちに、社長はソビエトに興味を持ち、傾注していったのだ。

当時、ソビエトの客人が来た時は春男さんが通訳のようなことをしたこともあった。その後、春男さんは退職し、別の企業に勤めることになったのだが、佐藤自動車工場にとっての事件は、その後に起きた。