日興証券H元常務の「自白」
特捜部は、新井将敬事件を内偵捜査中の1997年10月、日興証券元副社長と元常務のHを総会屋・小池隆一に対する利益供与の疑いで逮捕していた。
総会屋事件で、日興証券のH元常務の取り調べを担当していたのが、のちに安倍、菅政権の守護神と呼ばれる特捜部の若手・黒川弘務(35期)だった。
黒川は1997年4月に、青森地検弘前支部長から特捜部に異動。総会屋事件では、野村証券幹部から「3億2,000万円を酒巻社長の指示で総会屋に渡した」という決定的な供述を引き出すなど、手腕を発揮していた。
業界のガリバー「野村証券」がトップの指示で、総会屋という裏社会の要求に応じていたという事実は、世間に大きな衝撃を与えた。
黒川は「総会屋事件」が一区切りしたタイミングで、新井将敬事件の捜査に加わり、日興証券のH元常務の取り調べにあたった。
この頃、Hは「会社(日興証券)が、この事件を個人犯罪として処理しようとしている」と危惧していた。“新井のファン”を公言し、家族ぐるみで付き合っていたHは、日興証券が「自分たちを切り捨てるのでないか」と不安を抱えていたのだ。
そうした中、黒川の取り調べに対し、徐々に真相を語りはじめた。
「大蔵省出身の新井議員の機嫌を損なうことで、営業に支障が出ることを恐れた。明らかに会社のためにやったという認識だった」(H元常務)
新井はHとの取引にあたって、Hの上司である日興証券副社長に面会し、こう要求したという。
「(部下の)Hさんは自己売買もやっている。Hさんの立場ならいろいろなやり方ができるでしょうから、多少相場の具合が悪くても、何とか利益を出してくれるでしょう。Hさんのやり方で、確実に儲けを出してくださいよ」(検察側冒頭陳述)
新井はHにも直接こう働きかけた。
「今月中には現金を1億円くらい入れるから、信用取引で頼む。方法は任せるから、確実に手堅く(儲けを)出していってよ。普通の相場の中で取引していたんじゃ、うまくいかないこともあるから、Hさんに頼んでいるんだからね」(検察側冒頭陳述)
