「1億円」流用と偽装工作
しかし、特捜部の調べで、この資金「1億円」は事業には充てられることはなく、「日興証券」の「西田口座」に振り込まれ、新井が株取引に運用していたことが明らかになった。
新井は流用の事実を隠ぺいするため工作を仕掛ける。
「1億円はそもそも株取引資金として借りたもので、返済している」という筋書きを作り上げるため、関係者に働きかけたのだ。まず、日興証券新橋支店の「借名口座」に名義を借りていた西田邦昭に、次のように記された一枚のファックスを送った。
「セント・ギガ増資までの間、西田の口座で1億円を使うことに合意した」
西田とHオーナーとの間で交わされる「念書」の案が記載されていた。日付は8年前の1990年とされていた。さらに「Hオーナーのサインをもらってほしい」という新井からの「依頼文」がついていた。
要するに、「1億円」はHオーナーと西田が合意した上で、株取引に使っていたことに見せかける「念書」を作成しようとしたのである。
しかし、西田は新井の依頼を断った。
関係者によると西田は無断で「借名口座」の名義人に利用されていたことから、「これ以上、新井に関わりたくない」と周囲に話していたという。
工作を断念せざるを得なくなった新井。驚くべきことに今度は、Hオーナーに対し、こう申し出たのだ。
「こちらの不手際で1億円が手元に残っていたので、お返しします」
新井は「1億円」の入金が記帳された「預金通帳」をHオーナーに渡し、「あくまで1億円は株取引資金として借り受け、返済した」との体裁を整えたのである。
一方、Hオーナーはバブル崩壊で本業のレジャー開発や旅館経営が悪化し、再建に奔走していたこともあり、新井に預けた「1億円」については、すでに諦めていたという。「セント・ギガがうまくいっていない」という話も耳にしていたため、戻ってこないものと覚悟していたという。
そんな矢先、新井から「1億円」の預金通帳を渡され、突如の返金があった。しかも、その日は、新井が衆議院予算委員会に参考人として招致される前日、1月29日だった。
翌1月30日、新井は予算委員会で「1億円」が借金であることを初めて認めた上で、共産党の木島日出夫議員の追及にこう答弁した。
「Hオーナーから無担保で証券取引の資金として借りて、返済した」(新井の国会答弁)
特捜部はすでにこの段階で、日興証券役員らから「新井からの株取引での執拗な利益要求があった」などの自白を得ており、新井の証券取引法違反容疑での逮捕に向けての証拠をほぼ固めていた。
