釧路湿原の周辺で問題となっているメガソーラーの建設。その釧路市で4日、動きがありました。
■開発と保全…食い違う見解
石黒拓海 記者
「きょうから釧路市議会が始まります。ソーラーパネルに関する新しい条例が提案されます」
「太陽光発電施設」の設置を規制する条例案が、市議会に提出されたのです。
釧路市 中村基明 副市長
「本市の太陽光発電施設の適切な設置および管理のための必要な手続き等について定めるもの」
釧路市環境審議会 神田房行 会長
「やっとここまで来たかなという感じ」
太陽光発電と環境保護をどう両立させていくのか。もうひとほりします。
釧路湿原周辺で進む、メガソーラーの工事。
サッカー場6面ほどの広さに6600枚のソーラーパネルを設ける計画ですが、国立公園の外側にある民有地のため、自然公園法の規制はかかりません。
日本エコロジー 大井明雄 営業部長
「釧路市にも届け出をして、受理印をもらった」
開発を進める日本エコロジ―は、釧路市が定めた「ガイドライン」にのっとって、生物の事前調査書や工事の計画書などを市に提出し、受理されたと主張。
年内の完成を目指して工事を進めてきました。
一方で、希少生物や湿原への影響を懸念する声もあがっています。
天然記念物のタンチョウの親子をとらえたこちらの映像。
その奥には、重機やトラックが作業しているのがわかります。
猛禽類医学研究所 齊藤慶輔 代表
「センターで飼っている鳥たちにも届く騒音を立てて、朝から晩まで工事が行われている」
工事現場のそばにある猛禽類医学研究所の獣医師・齊藤慶輔代表です。
現地の周辺で、ことし2025年に生まれたひなを連れたタンチョウやオジロワシが確認されていて、十分な調査がされていないと訴えています。
市の教育委員会も8月、日本エコロジーに対し、文書で再調査を求めました。
さらに、一部の区域で、森林法に定められた北海道の許可を得ずに工事が行われていたことも判明。
道は2日、違法部分について中止するよう勧告しました。
日本エコロジー側は「違反部分の今後に関して協議していく」としています。
■釧路市内の太陽光発電施設 条例で規制へ
ただ、市内の他の地域に目を向けてみると…、
石黒拓海 記者
「釧路市内では今回問題となっている場所だけでなく、湿原の周辺を含むあちこちで太陽光パネルが目につきます」
国や市によりますと、7月末時点で、太陽光発電施設は、少なくとも524か所。
今後も、27か所で設置が予定されているといいます。
釧路市 鶴間秀典 市長
「条例をしっかり通して釧路湿原・釧路全体の自然も含めて、守っていきたい」
太陽光発電施設が自然環境に悪影響を与えないようコントロールしていくのが、今回の条例案の狙いです。
規制対象となるのは、出力10キロワット以上の太陽光パネル。
事業者に対し、市との事前協議や近隣住民への説明会を義務付けます。
さらに、タンチョウやオジロワシなど5種を「特定保全種」と位置づけ、生息調査や保全計画の作成も必要になります。
手続きに従わなければ、市は設置の許可を出しません。
起草に関わった釧路市環境審議会の神田会長は、条例は「最強の切り札」だと強調します。
釧路市環境審議会 神田房行 会長
「野生動植物・文化財の立場から、ここはまずいとなれば市長の許可がなければ建設できないというのが、これはいま、我々が取りうる最強の手段かなと。今のところ法的拘束力を持つのは、この条例しかないので、そこに期待している」
■条例案のポイント「許可制」に
釧路市の条例案の一番大きなポイントは、「届け出制」から「許可制」にすることです。
手続きを満たさなければ、設置ができないようになります。
どのような手続きかというと、事業者は市と事前に話し合ったり、住民説明会を開いたりすることが義務付けられます。
また、タンチョウなど5種類の生物を「特定保全種」に指定し、生息の可能性が高い地域では生息調査や保全計画が必要になります。
これは、17日に可決の見通しで、適用は2026年1月の工事からということで、今回問題になっている工事は対象外となります。
北海道内で太陽光発電施設の規制条例は、内容はさまざまですが少なくとも27市町村にあるということです。
■メガソーラーをめぐるトラブルに詳しい専門家
メガソーラーをめぐるトラブルに詳しい環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員によりますと…
釧路湿原のようなところで、開発が進む背景は、自然としての価値が高い一方、経済的な価値が低い、つまり持っていても住宅地などに活用しにくい場所が事業者に多く買い取られていることが挙げられます。
以前は、山の斜面や山林が多かったのですが、開発費用がかさむため、釧路のような平野部へ。結果、広くて安い土地のある北海道でメガソーラーが増えるということです。