秋篠宮家の長男・悠仁さまが、2025年9月6日に成年式を迎えられる。皇居・宮殿や赤坂御所内のさまざまな場所を移動しながら、この日だけで9つもの儀式・行事を行う(あいさつ含む)。

悠仁さまは皇位継承順位2位で、次世代の皇室を担う存在。成年式は父・秋篠宮さま以来40年ぶりのことで、歴史的にも重要な1日となるが、成年式とは一体なんだろうか。そもそも「皇族が成年になる」とはどういう意味を持つのか。

成年皇族になると何が変わる?

皇族が成年になると、公務や宮中行事への参加が増える。晩さん会などの「宮中行事」や正月と天皇誕生日に行われる一般参賀、春・秋の園遊会などは、成年皇族のみが参加する。
悠仁さまは年齢的にはすでに成年を迎えているが、宮内庁は「宮中行事への参加は成年式後」としていて、まさに今度の式が大きな転換点となる。

また、支給されるお金「皇族費」も変わってくる。悠仁さまの場合、未成年のときは年305万円が支給されていたが、成年になって支給額は3倍の年915万円に増額された(厳密には、誕生月以前と以後で月額計算が変わる)。公的行事への参加が多くなり、必要な費用が増えるため、こうした制度設計になっている。

成年式とは

歴史的には通過儀礼「元服」がもとになっていて、男性皇族が成年を迎えると儀式が行われてきた。1909年にそれを明文化した「皇室成年式令」が制定されるも、戦後まもなく廃止。現在はあくまで慣例として、男性皇族限定で式が続いている。
近年の例でいえば、佳子さま(2014年成年)や愛子さま(2021年成年)の際、記者会見や勲章の授与などはあったが式は行われなかった。

▲近年は女性皇族の数が圧倒的に多く、男性限定の「成年式」は長らく無かった。宮内庁側にも経験者がほとんど残っておらず、前例や映像資料をもとに行われる。

一連の行事は、秋篠宮邸での「冠を賜うの儀」から始まる。モーニングコート姿で、天皇陛下から贈られた成年用の冠を使者を通して受け取るものだ。

次に、皇居・宮殿に移動して「加冠(かかん)の儀」。装束姿で成年用の冠をかぶる中心的な儀式。かぶったあとは冠の緒を結び、余った部分を和ばさみで「パチン、パチン」と切っていくのだが、宮殿内が静寂に包まれる中、はさみの音だけが鋭く響くという。この音が式の象徴的なシーンだ。
現代でも使われる言葉「冠婚葬祭」のうち、お祝いごとを表す一文字目「冠」は、「加冠の儀」からきている。

その後、悠仁さまは成年用装束に着替え、儀式のための特別な馬車に乗って「宮中三殿」へと向かう。

▲今回使われる「儀装馬車4号」。父・秋篠宮さまの時と同じタイプのもの。全長4.5mで馬2頭引き。

そして、両陛下へのあいさつ「朝見(ちょうけん)の儀」、勲章親授、祝賀、上皇ご夫妻へのあいさつ、私的なお祝い行事などが夜まで続く。関連行事は翌日以降も続き、伊勢神宮(三重)・神武天皇山陵(奈良)・武蔵野稜(東京・八王子)への参拝など、盛りだくさんだ。

▲天皇陛下の「加冠の儀」(1980年)

衣装は? 装束の製作担当者に聞いた

皇室の装束製作を長く担当してきた「髙田装束研究所」の所長に話を聞いた。平安時代から装束製作の専門業者で、代々成年式の装束を担当。今回の「悠仁さま成年式」についても装束などの新調に携わっている。

髙田装束 髙田明男所長
「祖父の代では昭和天皇、上皇さま、大正・昭和時代の殿下方。父の代では天皇陛下と秋篠宮さまの成年式装束を製作しました。今回、悠仁さまの式では、冠などを新調しています。式に合うような品格高いものをお作りしようと努めました」

季節により裏地の有無などが異なるが、今回は夏用の装束。男性皇族は冬生まれが多く、宮内庁によると、夏装束での成年式は秩父宮さま以来100年以上ぶりだという。装束は今回の成年式のために新調された。

▲明治〜大正の成年式で使用された本物の装束がTBS本社に。長さ6mにもおよぶ後ろの裾を丁寧に折りたたむ。色は伝統的に「浅黄」と表現されるが、至近距離で見ると「黄金に輝いている」と感じた。100年以上前の物とは思えないほど発色が良い。

記者
「黄色と黒、装束を2つお持ちいただきましたが、どう違うのでしょうか?」

髙田装束 髙田明男所長
「黄色の未成年用装束の上着は、『闕腋袍(けってきのほう)』、一方、黒い成年用は『縫腋袍(ほうえきのほう)』と言われます。最も大きな違いは脇の部分があいているかどうか。『闕腋』とは『脇』が『欠』けてると書きます。『縫腋』は脇が縫われる、です。読んで字のごとくですね」

▲左が闕腋袍(未成年用)、右が縫腋袍(成年用)

髙田装束 髙田明男所長
「よく見ると、どちらも『雲』と『鶴』の文様が入っているのが分かります。明治以降、成年式装束については、これと同じ文様を使っています。色についても変わっていません」

儀式のシンボルでもある「冠」についても特徴があるという。

髙田装束 髙田明男所長
「未成年用のかぶりものとして『空頂黒幘(くうちょうこくさく)』というものがあり、平安時代からこのようなものがあったと確認されています。儀式では、そこから成年用の『冠』にかぶり替えます。成年式に限っては、天皇陛下から賜るということで、特別に『菊の御紋』が入ったタイプを使用できるんです」

▲未成年用(左)と成年用の冠(右)で形が異なるのがわかる。(1980年、陛下)

宮内庁によると、今回「空頂黒幘(くうちょうこくさく)」や小物の「檜扇(ひおうぎ)」などは、父・秋篠宮さまが40年前に使われたものがそのまま使用されるという。

記者
「儀式によって使用される物それぞれに特徴があるんですね。製作に携わる上で心がけていることはありますか」

髙田装束 髙田明男所長
「上品な裁縫仕立てをいかに出せるかがポイントです。宮中装束については、古くから続いている細かな約束事がたくさんあり、このような品格高いものを見よう見まねでは作れません。日々、資料を閲覧し、研究と練習を積み重ねています」

知らない世界の一端に触れられた気がする。成年式が格式高い儀式であることは分かったが、皇室の歴史に詳しい専門家によると、目をつぶれない問題もあるという。