始まらない裁判員裁判「無期懲役」か「死刑」か
元死刑囚の男に対しての裁判は、なかなか始まりませんでした。ようやく裁判が始まったのは、事件が発生して1年4か月後でした。
(加藤裕司さん)
「裁判員裁判ということで、裁判を行うということなんですけど、相手の弁護士からは、『検察が起こした起訴内容では、一切反論しません。争いません』ということでした」
「じゃあ、何を争うんだということなんですけど、要は『強盗強姦殺人』というのは、強盗殺人とは違って、“無期懲役か死刑”の2択しかないということでした」
「だったらすぐ始まるんじゃないか、と思ったんですけども、なかなか始まりません。裁判官と検事と相手の弁護士の3者で毎月1回、調整をしながら、いつまでに何をどうするというのを話し合うと」
「ところが、相手の弁護士がその日に出席しなかったら、1か月延びるんです。3か月くらい延びました。『あ、これは引き延ばし作戦だな』と思いました」
「検事さんに『早く裁判やってくれないと、こちらのテンションが下がってしまう』と言ったら、検事さんにすごく叱られて、『あなた一体何を言ってるんですか、あなたは裁判に出席することもできない、発言することもできないお嬢さんの代わりにあなたが戦うんですよ』と言われました」
「もうそれでいっぺんに目が覚めました。愚痴などを言っている場合ではない。もっともっと裁判員裁判に備えて、知らないことを勉強する必要があると思って」

「知らない、ということは質問もできない」
もともと裁判のことを知らなかった加藤さんは、普通の裁判と裁判員裁判は何が違うのかなど、「一生懸命勉強しなければならない」と思い、週2~3日を仕事にあて、残りの日は裁判について勉強することにしました。
(加藤裕司さん)
「私は当時、個人事業としてコンサルタントをやっていましたので、働かなかったらごはんを食べられないですよね。誰かが保証してくれるわけもなく、仕事に出ない日があれば、その分だけ減るわけですから」
「極端にいえば、ひと月の間に100万円以上の収入があると思えば、0円の月もあります。そういう激しい浮き沈みがあるんですけども。最低2日か3日は仕事するんですけども、あとは一生懸命、勉強するということで、事件のことも、それから戦前~戦中~戦後を通じての悲惨な事件を扱ったルポや小説とか、ありとあらゆる本を読みました」
「検察が起訴している以上、『精神鑑定は無いな』と思っていたんですけど、相手の弁護士が罪を下げる努力をする一つの手段として、『情状鑑定』というのがあります。これはやるだろうなと思っていたので、私は一生懸命、ある有名な精神科の先生の2人の本を約10冊くらい読みました」
「素人であっても、『どのようなパーソナリティ障害を持ってるのか』ということが言えるぐらいのレベルにしたいと思ったんです。というのは、相手の弁護士が精神科医を証言台に呼んで、説明した時になんかわけの分かんない病気を言った。これではもう勝負にならないと思ったんです」
「知らないということは質問もできないんです。そういうことがあってはいけないと思って一生懸命頑張って勉強しましたけど、結果としては、呼ばれることはありませんでした」