日航機墜落事故からあすで40年です。JNNは、当時警察の取り調べを受けた日航の元取締役のメモを入手しました。厳しく日航の責任を追及する警察の姿勢がボーイング社の口を封じたという見方も出ています。
「機体はほとんど粉々になっていて、ただひとつJALと大きく書かれたジュラルミン製の翼でしょうか」
1985年8月12日、日本航空123便は群馬県の御巣鷹の尾根に墜落。
「私がいる沢の対岸に水平尾翼が落ちています」
生存者4人、死者520人という大惨事となりました。事故の原因は、飛行中に機内の気圧を一定にするための「圧力隔壁」が壊れたこと。墜落した機体は、その7年前に、しりもち事故を起こしていました。
この時に損傷した「圧力隔壁」の修理は製造メーカーのボーイング社が行いましたが、墜落事故後の調査で修理が不適切だったことがわかり、ボーイング社も修理ミスを認めていました。
こうしたなか、警察は「日航がボーイング社の修理ミスを見逃した」として強制捜査に乗り出しました。この時、日本航空の取締役整備本部・副本部長で、事故調査の最高責任者だったのが、松尾芳郎さん(当時54)。警察から厳しい取り調べを受けました。松尾さんと親交があったジャーナリストの木村さんは…
ジャーナリスト 木村良一さん
「(松尾さんは)日航とボーイング社のパイプ役。しりもち事故(の修理)をボーイングに任せるべきだと進言したのは松尾さん。事故機に関して日本で一番、世界で一番知っている」
木村さんは2020年に松尾さんから当時の記録を受け取りました。
ジャーナリスト 木村良一さん
「群馬県警の取り調べ内容と検察庁の事情聴取。これを“松尾ファイル”と呼んでいます」
そこには日航の刑事責任を追及する厳しい取り調べの様子が…
【日航元取締役・松尾氏のメモより】
取調官
「警察をなめるな。俺の言うことがわからないのか。会社として責任はあるはずだ」
松尾芳郎氏
「ボーイングが修理ミスをした。それを日航が発見できなかった。しかしその発見の可能性は極めて小さかった」
取調官
「修理ミス発見の可能性の大小は警察が判断する」
松尾芳郎氏
「唯一発見できる可能性があったのは、あの作業現場に立ち会うこと」
松尾さんは「会社としての責任はあると思う」としたうえで、日航の過失を否認。一貫して「ボーイング社の修理ミスによる結果だった」と訴えました。
そもそもなぜ修理ミスが起きたのか。
墜落した機体がしりもち事故を起こした際に、ボーイングの修理チームが使った修理指示書。修理チームの技術部門が現場部門に指示したものですが、「丁寧なもの」とは言い難いものでした。
結果、この通りに修理は行われず、警察はこれを問題視。取り調べでも「日航側は修理指示書をチェックすべきだった」と指摘しましたが、松尾さんは「義務ではない」と主張しました。
【日航元取締役・松尾氏のメモより】
取調官
「修理指示書を当時見ていれば、どうしていたと思うか」
松尾芳郎氏
「指示内容についてもう少しわかりやすく書けないものかと質問したと思う」
松尾さんは業務上過失致死傷の疑いで書類送検されますが、その後、不起訴に。一方、日航への刑事責任追及とは対照的に、警察などはボーイング社の修理担当者に聴取すらできませんでした。
再発防止のために原因を追究するアメリカでは、過失による航空事故では刑事責任は問われませんが、日本では事故調査の内容が捜査に使われる。木村さんは日本の刑事責任追及の動きがボーイング社の口を封じたのではないかと指摘します。
ジャーナリスト 木村良一さん
「群馬県警の捜査のたたき台というのは事故報告書。事故調査委員会も何度もアメリカまで足を運んで、それで(話を)聞こうとしたけど、ボーイングの関係者は逃げちゃってダメだったと。その後の群馬県警も同様に答えを得られず」
松尾さんは現在94歳。私たちの取材に、こう明かしました。
日航元取締役・松尾氏
「『ボーイングを訴えるべき』と高木社長(当時)に進言したことがあったが、頷くだけで行動はされなかった。社内にあった『ボーイングは神様』の考えが社長にも染み込んでいたのかもしれない。当時の良好な日米関係、中曽根総理とレーガン大統領の関係を忖度されたのかもしれない」
あの夏から40年。ボーイング社は「修理ミスの理由」を今も明らかにしていません。
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