「ゴルフ、旅行、つけ回し・・・・・」は要求型

収賄容疑で逮捕した金融検査官・Mを東京拘置所へ連行し、取り調べを担当したのは、東京地検特捜部の松井巌(32期)だった。松井は一連の「総会屋事件」では、野村証券の酒巻英雄元社長の取り調べも担当していた。
のちに最高検刑事部長、福岡高検検事長を務め、警察庁と協力して北九州市の指定暴力団「工藤会」の摘発に尽力したことでも知られている。

松井はMから「検査情報を漏らす見返りに接待を受けた」と認める自白を引き出した。
Mへの接待攻勢は、第一勧銀の検査前後の1994年10月と、あさひ銀行の検査が行われた1996年6月に集中していたことも判明した。

東京地検特捜部は、金融検査の日程や対象支店を漏らしたり、不良債権を見逃した見返りに接待を受けたり、マンションのあっせんを自ら要求したとしてMを収賄罪で起訴した。
Mが、第一勧銀をはじめとする金融機関から受けた“ノーパンしゃぶしゃぶ店”などを含む接待の総額は、約「810万円」に上った(後に有罪確定)。

東京地検のスポークスマン役、松尾邦弘次席検事(20期)は記者会見でこう強調した。

「Mへの接待はゴルフ、高級料亭、温泉旅行、さらには“つけ回し”もあった。
また本人の要求によるものまで多岐にわたっていた。ほかの金融検査官が第一勧銀による総会屋への不透明な融資に、厳しい指摘をしたにもかかわらず、Mは検査報告書に一切その事実を記載しなかった」

“つけ回し”とは、銀行関係者が同席せず、大蔵官僚だけが飲食し、後日その代金を銀行側が負担する手法である。
またMは、飲食接待のほかにも、武蔵野市の自宅のマンションを購入する際に、あさひ銀行から「約450万円の値引き」を受けていたほか、別の銀行には「歯科治療費」まで肩代わりさせていたことが明らかとなった。

Mは前年の1997年の秋以降、TBSの取材にたびたび応じ、こう語っていた。

ーー接待はワイロにあたるという認識はありましたか?
「なんでワイロになるのか、教えてほしい。我々の重点事項を知りたいこともあるでしょう」

ーー金融検査に手心を加えたことは?
「10人の金融検査官が検査に行けば、物差しは一致しない。裏でこっそりなんてありえない」

ーー銀行担当者側には、検査日程や債券分類に対して依頼する主旨があったのでは?
「非常に際どいとは思う。飲食は皆無じゃないわけで、社会通念上の常識の飲み食いはありますよ…」

Mは逮捕前、TBSの取材に対して「銀行側との飲食はあったが、常識の範囲内だった」と一貫して主張していた。

金融検査官Mに「マンションの値引き」をしていたあさひ銀行(当時)