「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」
1998年1月26日、東京地検特捜部が「官庁の中の官庁」と称された大蔵省の中枢に切り込んだ。大蔵省が本格的に摘発されたのは、1948年の昭電疑獄以来のことだった。
当時の大蔵省は、現在の金融庁と財務省を合わせた機能を担ってた強大な権限を持った官庁。大蔵省内部では、「まさか、家宅捜索にまで踏み込むとは」との驚きが広がった。
その日、収賄容疑で逮捕されたのは、金融証券検査官室長のMと、金融検査部管理課長補佐のT。いずれも大蔵省のノンキャリア職員だった。
この一週間前には、大蔵省OBで「日本道路公団理事」のIが収賄容疑で逮捕されているが、Iが大蔵省で「初代金融部長」を務めていた際、直属の部下として仕えていたのがMだった。
Mが第一勧業銀行(以下、第一勧銀)のMOF担=大蔵省担当から受けていた「過剰接待」の実態は、世間に大きな衝撃を与えることとなる。
舞台は、東京・新宿区歌舞伎町の「楼蘭(ローラン)」という、いわゆる“ノーパンしゃぶしゃぶ”店。西武新宿駅とコマ劇場(現TOHOシネマズ)をつなぐ路地に面した、6階建てビルの地下にあった。
Mが初めて「ローラン」で第一勧銀から接待を受けたのは、1994年9月下旬。翌月に予定されていた同行への「金融検査」を前にしたタイミングであった。
その際、Mは同行のMOF担にこう依頼したという。
「歌舞伎町のノーパンしゃぶしゃぶに一度行ってみたい。来週のこの日でお願いできないか」
「ローラン」は、掘りごたつ式の席で「しゃぶしゃぶ」を提供するスタイル。
給仕をするのは、膝上20センチのミニスカート姿の若い女性たちだった。追加で5000円〜1万円のチップを渡すと、彼女たちは下着を脱いだ。
天井にはウイスキーボトルが数本、逆さに吊るされており、注ぎ口にグラスを当てると中身が出てくる仕組みだ。
客が水割りを注文すると、女性がグラスを持って立ち上がり、ボトルに手を伸ばして酒を注ぐ。その際、センサーが作動してテーブルの四隅に仕込まれた「通気孔」から風が吹き出し、女性のスカートがまくれ上がる仕掛けになっていた。
この夜のMの飲食代、約4万円は、もちろん第一勧銀が負担した。
「ローラン」は1991年に開店。看板には「会員制 アダルト割烹」と掲げられ、入会には2人以上の紹介が必要。完全予約制で、1日2回の入れ替え制だった。
店舗は地下2階にあり、さらに地下3階には「完全個室」が用意されていた。
「しゃぶしゃぶ」や「すき焼き」には松阪牛が使われ、グレードは「松・竹・梅」の三段階。フォアグラのバターソテー、天然鯛の鯛めしなど料理も「絶品」との評判だった。
この店を接待に利用していたMOF担の一人は、当時こう語っていた。
「女性に渡すチップも加えると、1人あたり5〜6万円はかかった。だが、相手に羽目を外してもらうためには、効果は抜群だった。たとえば1本3000円でペンライトを購入し、こたつに潜りこむと、女性が股間を見せてくれる。こうした破廉恥な遊びを大蔵官僚と一緒に共有することが大事だった。それで“仲間意識”というか“共犯関係”が生まれることで、情報が取りやすくなったことは間違いない。ローランは接待の場としては申し分なかった」

