久しぶりに会ったきみちゃんは、あごひげを生やしていました。

からだを男性に近づける治療を今後再開するのかついては、「する予定はあるけど、本当にどうするか、いろいろと話して結論付けていきたい」と話してくれました。

今の日本の法律では、子どもが成人するまで戸籍の性別変更もできないため、「長い目で見ながら考えていきたい」と言います。

妊娠出産を経て、きみちゃんはまわりから「母性が出て来た?」と声をかけられることもあるといいます。しかし自身が男性であるという認識は、揺らぎません。

「子どもを守らなきゃと思うし、でもそれは同じようにちかさんも思っている、母性というより親心だと思う」と、きみちゃんはゆっくりと力強く話します。

2月に自民党など4党は、第三者が提供した精子や卵子を使った不妊治療のルールを定める法案を提出。対象を法律婚の夫婦に限定しました。ビジネス目的で精子・卵子を提供することへの制限や、生まれた子が自分の生物学上の親を知る権利に配慮することなどに触れる初めての法案である一方、法律婚を選ばなかったカップルや自分1人で子どもを育てたいと考える人は対象外としたのです。

きみちゃんはからだの性別を女性のままにすることを選び、ちかさんと法律婚をしているため、この法案が成立したことで直接受ける影響はありません。しかし仮に、きみちゃんがからだの性別も戸籍の性別も変えたあとにちかさんと出会っていたら、2人が子どもを持つ未来はなかったことになります。

廃案にはなりましたが、ゲイやレズビアンなどのカップルの生き方を制限しようとする流れが起きたことに、子どもを持ちたい当事者からは、将来への不安の声が上がっているといいます。

取材の1週間前に2人は、札幌市で行われた、子どもを持ちたいLGBTQ当事者の集まりに参加したそうです。

「法律ができるかもしれないとなって、駆け込みで妊娠しているという話を聞いた。子どもがほしいという気持ちは、誰しもが持っていい当たり前の気持ちなんだと伝えたい」ときみちゃんは話します。