人口約2300人の離島の町、海士町(あまちょう)では画期的な移住支援政策により人口が増加傾向を見せている。人を集めるその魅力とは?
「人生観が変わった」大人の留学
島根県・島根半島の北に浮かぶ隠岐諸島。住民がいる島は4つあり、そのうちの1つが海士町がある中ノ島(なかのしま)だ。

ブランド牛の隠岐牛が放牧されている自然豊かな島は、鎌倉時代に承久の乱で敗れた後鳥羽上皇が「島流し」された場所として知られ、隠岐諸島全体がユネスコの世界ジオパークにも認定されている。
コンビニエンスストアもファストフード店もない人口約2300人の小さな島だが、至る所で見かけるのが若者の姿。

その多くが、海士町が2020年からスタートした「大人の島留学」という20代の若者を対象とした「就労型お試し移住制度」で島にやってきた。
町のとある場所で、ドライバーやスコップなどを手に“移住者の増加で不足する住宅”を作る仕事をしていた若者たちも「大人の島留学生」だ。

大人の島留学生は、▼3か月から長くて1年間▼町が用意したシェアハウスで生活し“働きながら地域の課題解決”に取り組む。
年間200人以上が海士町に留学し、1割ほどがそのまま島に残るという。
島に来る前は寿司職人だったという瀧さんも島に残っている1人だ。

茨城県から移住・瀧 直人さん(25)
「海士町に来たのは面白そうっていう直感だけ。全く今まで知らなかった人と新しい場所で新しいことをするのも面白そうだった」
瀧さんは2024年、大人の島留学生として島の魅力を伝える広報の仕事をする傍ら、捕っても捨ててしまう「未利用魚」の存在を知り、島留学の仲間とともに未利用魚を無くす事業を立ち上げた。
瀧さん
「全然お金にならなくて失敗しまくりだったけど、それでも周りの方が『ここで諦めるなよ』みたいなことをたくさん言ってくれて2年目も島に残ることを決意した。島では自分の足で道を切り開くみたいな感じで生きることができているので、“人生観が変わった”ような気がする」
若者たちは海士町の祭りなどのイベントにも参加。地元住民も好意的に受け入れ、地域にも活気が戻ってきたという。
「誰もが活躍できる」魅力
実は海士町は、「大人の島留学」を始める前から積極的に移住者を受け入れ、2023年までの20年間で800人以上が移住。「定着率49%」と半分近くが今も島で暮らす。
ふるさと納税事業を運営する第3セクター企業で働く石原さんも2019年に移住してきた。

『AMAホールディングス』取締役 石原紗和子さん(39)
「少数精鋭でいろんなことをたくさんやっている。バッターボックスにすぐ立たなきゃいけないんですよみんな。住民だろうと移住者だろうと関係なく“やってみたい人に挑戦させてみる、預けてみる”という土壌がすごく高い」

2歳の子を持つ石原さんは、海士町では出身地や年齢、性別問わず、“誰もが活躍できる環境”が魅力だという。
石原さん
「結婚とか出産とか自分の女性としての人生とキャリア、これぐらい稼ぎたいというのが、都会だとずっと天秤にかけなきゃいけない。でもこの島に来たら、地域の人に子どもを見てもらったりしながら、仕事と暮らしが両立できている」