ウクライナとの戦争状態が続く中、ロシア国民に大きな影響を与えているのが、政治的な意図に基づく宣伝工作=プロパガンダだ。ロシア国内外で繰り返されるプロパガンダの実態を取材した。

■テレビやインターネットで繰り返される戦略的プロパガンダ

ロシア国営テレビの討論番組「60分」。国内で最も影響力のある「第一チャンネル」で放送されていて、キャスター2人はプーチン大統領に近いことで知られている。

女性キャスター:
「ロシア軍はドンバス地方を解放する動きを強化します。ウクライナ軍とナチスはドンバスで一般市民への砲撃を続けています」

記者:
「ファシストの砲撃は止まっていません。これを見てください。ウクライナのナショナリストのせいで、ドンバスにはこれからも多くの犠牲者が出るでしょう」

番組に出演している専門家たちは、西側メディアが伝える内容を信じるなと強調する。

専門家:
「特別軍事作戦が完全に成功していることを疑う人がいたら、変な情報は見ないでほしい。交渉の参加者はいろんなことを言う可能性があります。最高司令官(=プーチン)の言葉に耳を傾けて、何が起きるのか見てください」

ロシア軍が包囲する南東部の街、マリウポリ。ここでもロシアメディアは、ウクライナ側が街を破壊していると伝えている。

さらに、ロシア軍の砲撃によって劇場で300人が亡くなったと報じられていることについて「フェイク」だという声を伝えている。

アナウンサー:
「一般市民を盾にしていたのです。すべてが焼けました。地下室への入り口ですが、死者は見当たりません。ナショナリストが劇場を爆破したのです。挑発のためといわれています」

ロシア側のYouTubeなどでも宣伝工作が行われている。

ある映像では、17万人近くの市民が水や食料が足りない極限状態に置かれる中、市街地の一角に行列ができている。市民が求めているのは届いた支援物資で、その箱には、ロシア側を表す「Z」のマークが記されている。ロシア兵がパンを配る様子や、兵士に泣きつく女性の姿も映る。ロシア側は、ウクライナから解放した町で人道支援に乗り出している、と動画を拡散している。

キヤノングローバル戦略研究所 吉岡明子研究員:
「プロパガンダ動画を各学校に配布して、必ず授業に組み入れるようにという通達を出したということも聞いています。忖度というのも結構ロシアにはあって、むしろ自発的にやっている可能性というのもあると思っています」

プーチン大統領にとって、プロパガンダは政権維持の重要な戦略だという。

吉岡研究員:
「プーチン大統領というと、強権政治や独裁者というイメージが非常に強いかと思いますが、その一方で、国民からの支持を得ている大統領なんだという正統性に非常に強くこだわる、というのがプーチン大統領の統治の特徴だと思います。今回に関しては内向き、特に世論の形成といった部分に非常に集中していることがうかがえるかと思います」