ウクライナ戦争で戦っているのは当事国の正規軍ばかりではない。ロシア側にはチェチェンの特殊部隊、民間軍事会社『ワグネル』の傭兵が幅を利かせる。対するウクライナ側には民間人による軍事的組織“パルチザン”がいる。今、ロシア軍にとって大きな脅威となっているウクライナの“パルチザン”の実態に迫った。
■「今回の戦争でゲームチェンジャーが2つある。それはハイマースとパルチザン」
“パルチザン”とは占領支配に抵抗するために地元市民が結成した軍事的組織。
番組が話を聞いた元パルチザンの男性は、クリミアが併合された2014年にパルチザンに参加した。それまではごく普通のビジネスマンだった。

ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 52歳
「2014年から私の友人が殺されるようになりました。友人たちは手を縛られ頭を銃で撃たれた状態で森の中や道端で発見されました。もう抗議だけでは効果がないと思い家族を守るために2014年の夏パルチザンに参加しました。私も友人も民間人でした。人を殺すという行為に対して精神的に強い抵抗がありました。でもウクライナ人の捕虜や遺体に対するロシア兵の残虐行為を目の当たりにして、その抵抗感が消え、夜中にロシア兵を襲うようになりました」
ジェムチュゴフさんは送電線に爆弾を仕掛けその場を去る時、道路側に親ロ派の軍隊がいたため道をそれた。その瞬間、地雷によって両腕を失い、ロシア側に拘束されたという。取り調べに何も答えなかったため、捕虜交換には時間がかかったとも話している。ウクライナに返還された後は政府の職員として働いていた。そして今年2月ロシア軍の侵攻を機に、今はパルチザンの育成、組織づくりを依頼され従事している。
ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 52歳
「若者にスパイ活動の基礎を教えました。スマホで情報を安全に提供する方法や自作爆弾の作り方も…。(中略)ロシア占領地域から脱出した者はウクライナの支配地域で訓練を受け、その後占領された地域に戻って活動します。現地では新たな人材の参加でロシア側に大きな被害を与えています」
元々パルチザンは違法な存在だったが2014年末に合法化され、国防省の管轄下にある。軍事的組織が脆弱だったためにクリミアを簡単に奪われてしまったウクライナにとって第2のクリミアを生まないための手段がパルチザン合法化だった。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「パルチザンの特色というのは、自分たちの支配が及ばなくなった地域でも反抗運動が行えること。実際今もロシアが支配した地域で様々な活動によってロシア軍の勢力をそいでいる」
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「合法化されたことがもの凄く重要。小さな国が大きな国に侵略された時、軍隊だけでは対応できない。そこでトータル・ディフェンス、国家全体で守るんです。軍だけじゃなく政府も官庁も含めてすべての国民が防衛に当たることが必要なんです。今回の戦争でゲームチェンジャーが2つある。それはハイマースとパルチザンなんです。パルチザンのおかげでロシア軍の作戦はものすごく難しくなっている。パルチザンたちはどこで活動するかというと前線じゃないんです。敵の前線の後方地域で活動する。だからロシア軍は、前方は気を使わなきゃいけないし、後方も気にしなきゃいけない」
パルチザンの活動はいわゆる正面切っての戦闘とは違い、ゲリラ戦や暗殺、爆破など何でもありだ。
先日ヘルソン州の副知事が自動車事故で死亡した。彼は一方的に併合された後ロシアに任命された親ロ派の人物。パルチザンが2万ドルの懸賞首としてビラを貼っていた相手だ。となると本当に事故だったのかどうか…。クリミアで頻発した爆発。クリミア大橋の爆破。ロシア将校の相次ぐ死亡などなど、ロシアの痛手にパルチザンは無関係とはいえないようだ。
だが、このパルチザンの活動に番組のニュース解説・堤氏は歴史の皮肉を感じるという…。
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「パルチザンってもともとソ連、ロシア圏の言い方なんですよ。フランスなんかではレジスタンスっていうことが多い。パルチザンの代表的なものといえば(第2次大戦の)独ソ戦のパルチザンですよね。ナチスドイツに対してソ連の人たちが立ち上がった。それが今ウクライナの人たちが立ち上がってロシア軍と戦っている。歴史の皮肉を感じます…」