広島市の安佐動物公園で暮らしていたメスのチンパンジー「ナナ」が、今週、東京に引っ越しをしました。ただ、ナナの人生は波乱に満ちたものでした。その歩みを振り返ります。

ナナは、安佐動物公園生まれの26歳です。ナナの父親はイギリスから来たフレッド。繁殖を期待されましたが、1997年に急死してしまいます。

これを受けて園は、フレッドの精子を冷凍保存。翌年、冷凍した精子を使って人工授精を行いました。死亡したオスからとった精子での人工授精は世界初の試みでした。

母親はアフリカ生まれのナオコです。当時、推定25才で出産経験はありませんでしたが、翌年、妊娠している事が確認されました。当時、安佐動物公園にとって、チンパンジーの赤ちゃん誕生は初めて。仲間のチンパンジーの育児を見たことがないナオコのために、園はビデオを見せて子育て教育をしたほか、無事に出産・育児ができるよう、身体を気遣い、飼育を続けました。

1998年、7月。ナナが誕生しました。世界で初めて、凍結精子の人工授精で生まれたチンパンジーです。

しかし、生まれたばかりのナナが見つかったのはチンパンジー舎の隅の溝の中でした。

ナオコは、ナナを見ると逃げ出すなど、混乱した様子を見せました。ナオコは、出産の数日前からほとんどエサを食べず、出産後は抗生物質の投与や輸血を受けていました。出産からわずか5日後…チンパンジー舎で倒れ、その後死亡が確認されました。

生後まもなく飼育員たちに引き取られたナナは、体温が下がり、弱った状態でした。