男女のボーダーなきコスメ商戦 メンズ客獲得の糸口とは

近年、名だたる男性アイドルらがスキンケアや香水などのイメージモデルに起用される事例が後を絶たない。ブランド側の狙いは、「推し活」を通じた女性ファン層の獲得であることはもちろん、男性タレントの起用は、メンズマーケットへの“橋渡し”も担っている。
前出のヘアメイク亀谷さんも語るように、男性がスキンケアやメイクを日常に取り入れるケースも増える中、新たな成長市場として欠かせないZ世代男性の取り込みを図る、各社の囲い込み戦略だ。男性がコスメを使うことに対して違和感を持たないよう、心理的ハードルを下げるきっかけづくりが求められている。
PLAZAは今年1月〜2月にかけて、阪急メンズ東京(有楽町)で男性客にターゲットを絞ったポップアップイベント「Glow-Up Gameboard by PLAZA」を開催。美容の始め方やコスメの使い方が分からない初心者男性にも分かりやすいように、体験型の企画を打ち出し、土日には、メンズヘアサロンの人気デザイナーによる「変身ヘアメイク」イベントも開いた。
イベントは「抽選になるなど非常に好評だった」(清水本部長)などと一定の手応えを得たほか、コスメやヘアケアなどの商品に加え、会場に揃えた帽子などの雑貨も好評だったという。輸入雑貨店としての認知度もあり、アパレルや雑貨にも強いPLAZAでは、常設売り場でも男性客を意識した品揃えを意識している。
4月に発売した晴雨兼用の折りたたみ傘は、他社製品の別注品として、「色やサイズを変えたり、カラビナを付けたりして工夫した」と、商品作りから取り組み、「日焼け対策として、男性でも日傘を持つ方が増えている。コスメでも、UV対策の商品は美容への入り口として強い」と、コスメとの親和性もある。
「こうした商品を、まずは売り場の中に『紛れ込ませる』こと。まずは身近なアイテムから打ち出していきたい」と、さまざまな施策で男性客とのタッチポイントを探る。
メンズメイク初級編は眉から? ヘアメイクおすすめ「ハイライト」も
メンズが取り入れやすいコスメと言えば、まずはスキンケア商品。化粧水や美容液などの複数のケアが一枚で完結するフェイスパックや、無色透明のネイルなどがその一例だ。次に、肌に乗せるとほんのりと色づき、トーンアップ効果のある日焼け止め下地などが「中級編」といったところ。
さらに「上級者」向けと言うと、ややハードルの高い「色付き」のカラーコスメが挙げられる。清水本部長が「本格的なメイクだと眉メイクから入る人が多い」、ヘアメイク亀谷さんも「今は眉に注目している男性が多い。描いている人も、アートメイクを施す方もいる」と両者口を揃えるように、眉ペンシルは「メイク」の入り口としておすすめという。
ドラマ『シンデレラ クロゼット』の撮影現場では、女性・男性キャスト問わずメイクを担当している亀谷さん。男性の俳優陣も含め、今回のメイクでポイントにしているのは「ハイライト」だという。「目の周りなどにちょこっと入れるだけで、一気に華やかさが上がる。内側から出るようなツヤ感も増すので、おすすめです」と話す。
特に男性向けのハイライトについては、「メンズのメイクで必ず入れるのは、鼻筋の部分。マットなハイライトを入れると、立体感が出ます」とコツも教えてくれた。
今回、本作で大きなテーマの一つとして描かれるのは、都会の生活を夢見て上京してきたものの、うまくなじめずにいる、ヒロイン・春香(はるか)の「自己肯定感」。青春ラブストーリーに加え、「自分を好きになる」という成長過程が描かれる中で、「コスメ」が果たす役割は大きい。
「化粧品が身近ではないという女性は、まだまだ山ほどいる。そのお手伝いがしたいという思いは、ドラマで描いていることとも同じ」(清水本部長)と明かすように、コスメは今、男女の壁を超え、前向きに自己表現したいと願う若者世代の背中を押している。
メンズコスメ市場の取材から見えたのは、「性別で分けること自体が古い」という価値観の浸透。特に“自分らしさ”を大切にするZ世代などの若者にとって、それは常識になりつつある。