太平洋へ「せり出す」中国海軍と「遼寧」「山東」の謎

今回の異常接近でP-3Cに接近した中国のJ-15戦闘機は、そのP-3Cが監視していた空母「山東」の艦載機でした。現在、中国海軍は3隻の空母を保有しています。「山東」は2隻目に建造された初の国産空母であり、1隻目の「遼寧」と共に今回、日本列島から南の太平洋で活動していました。中国の空母2隻が同時に太平洋で活動するのは、これが初めてのことです。

これは、中国が海洋進出を急ピッチで進めていることを象徴する出来事です。2017年、中国の習近平国家主席はトランプ米大統領との首脳会談後、「太平洋には中国とアメリカの2つの国を受け入れる十分な空間がある」と発言しました。

この発言は、太平洋を米中で二分しようとする中国の野心の表れと受け取られ、中国の膨張政策を象徴するかのようです。その狙いに沿うかのように、中国はより多くの空母を保有し、戦闘機を載せてどこまでも航行できる能力を追求しているのです。

しかし、ここで少し奇妙に感じる点があります。「山東」が初の国産空母であるにもかかわらず、中国海軍は既に「遼寧」という空母を保有しているのはなぜでしょうか。

旧ソ連、そしてウクライナが握る中国海軍のルーツ

実は、中国初の空母「遼寧」は国産ではありません。そのルーツは、旧ソ連の未完成空母にあります。ウクライナ共和国内で建造中にソ連が崩壊し、ウクライナに引き取られていたこの空母を、中国領マカオのレジャー会社が「海上ホテルにする」と称して1998年に購入しました。

しかし、海上ホテルになることはなく、2002年には中国軍と関係の深い遼寧省大連の造船会社に移され、研究・改修の末、「遼寧」として運用されることになったのです。当時の中国には空母を一から建造する技術が乏しく、まず中古空母を手に入れて研究することで技術を習得しようとしたわけです。

さらに驚くべきことに、今回P-3Cに異常接近した中国の戦闘機「J-15」のルーツもまた、旧ソ連、そしてウクライナにあります。中国は空母に搭載する戦闘機が必要でしたが、ロシア製の戦闘機を購入しようとしたところ拒否されました。

そこで中国は、ロシア製戦闘機の試作機を保有していたウクライナに購入を打診し、これを入手。その試作機から技術を取得し、「J-15」を開発したのです。

空母そのものも、そして空母に搭載する戦闘機も、そのルーツがウクライナにあるというのは、なんとも不思議な巡り合わせです。ロシアによる侵攻で世界の注目を集めるウクライナが、中国の海洋進出という文脈でも登場するとは。偶然かもしれませんが、国際政治の摩訶不思議さを感じずにはいられません。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める