給付金に拒否反応示した世論

4月に石破内閣が1人5万円の給付金を検討した際、国民からは「選挙前のバラマキ」と批判の声が上がり、各種世論調査でも反対論が強く、石破総理は給付金案を引っ込めた経緯があります。国民は一度限りのバラマキ政策のコストと効果をちゃんと見ているのです。

政府が国民に現金を配るといった政策は、やはり、最後の手段であるべきだと、私は思うのです。大恐慌やコロナ禍のように、突然、経済活動が停止し、多数の人の仕事が脅かされて、失業者が溢れかえるような危機の際に限って、採ることが認められる政策ではないでしょうか。失業率も低く、歴史的に見て高い賃上げが行われている現在の状況が、そうした極端な危機の時とは、とても思えません。

まして、先進国の中で突出した財政赤字を抱える日本が、効果の薄い、3兆円以上ものバラマキを行うことは、お金の賢い使い方ではないでしょう。日本国債の格付けはすでにシングルA、G7の国では、イタリアを除くと最低です。これ以上の格下げは、国債の格付けにリンクする日本企業の格付けにもダイレクトに響き、日本企業の資金調達に大きな影響を及ぼすことは確実です。

中長期的な税制改革の議論を

もちろん、予想以上の物価高で実質賃金のマイナスが続いていることから、何らかの生活支援が必要だというのは、理解できます。コメ価格の低下やエネルギー関連補助など、その他の物価高対策を尽くしても、なお不十分であり、相対的に早く実施できる給付金支給を求める声が、民意として示されれば、それは1つの回答です。

ただ、その場合でも、中長期的な税制改革の議論に速やかに着手することは、必要でしょう。インフレ加速で急速に実質増税が進んでいるだけに、住民税も含めた課税最低限の引き上げや、税率の刻みの変更など、所得税全般について、広範な改革が必要です。また、消費税についても、食品への軽減税率8%が本当に適切なのかなど、国民の納得を得る議論が必要な時期のように思えます。目先の対策だけでない、制度の論戦こそが、国民の前に提示されなければなりません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)