死刑執行のその時何が 死刑制度への賛否

4月23日、ハンツビル刑務所では一人の死刑囚の執行が予定されていた。

記者
「死刑開始予告時刻まで30分を切りました。警備につく警察官が配置につく一方で、死刑廃止を訴える人たちがプラカードを掲げて抗議しています」

日本では死刑執行の本人への告知は、執行の約90分前に行われ、事前に外部に知らされることはないが、テキサス州では数か月前に本人や社会に伝えられる。

死刑廃止を訴える人
「死刑は間違っているから、ここに来ました。終身刑や有期刑でも人は変われるはずです」
「人を殺す権利なんて誰にもありません。抗議するために毎回ここに来ています」

反対派から少し離れた場所には、死刑制度を支持する人が集まっている。

近隣の大学の課外授業の一貫として、学生や教員も死刑制度を考えるために見学に訪れていた。

この日、執行が予定されているのはモイセス・メンドーサ死刑囚(40)。

メンドーサ死刑囚は2004年、高校の同級生だったレイチェル・トールソンさん(20)を誘拐してレイプした後、殺害。

トールソンさんの生後6か月の娘は、翌日、無事に発見されるまで一人で部屋に置き去りにされたままだった。

死刑予定時刻の午後6時が近づく。執行に立ち会うため、メンドーサ死刑囚の妻や友人が処刑室に向かった。

被害者の遺族や、許可を得たメディアもその後に続いた。

ハンツビル刑務所内にある処刑室。ベッドの左手にある部屋に、被害者の母親ら遺族と記者が執行を見届けようと待機する。

その隣の別の部屋には、メンドーサ死刑囚の妻や友人が立ち会った。

午後6時3分、処刑室に入ったメンドーサ死刑囚。
午後6時4分、ベッドに横たわり、革ベルトで固定された。

午後6時7分、メンドーサ死刑囚の腕に注射針が刺される。そこから伸びたチューブはベッドの右手にある小さな穴を通じて、医療チームの部屋にいる医師とつながった。

午後6時20分、メンドーサ死刑囚は、被害者の両親と親族の一人一人の名前を呼んで、最期の言葉を述べた。

モイセス・メンドーサ死刑囚
「レイチェル(被害者)の命を奪ってしまったことをお詫びします。私には何も言えないし、どんなことも償いにならないと分かっています。心から申し訳ないと思っていると知ってほしい。きょうここに来てくれてありがとうございました」

午後6時21分、医師がチューブに致死薬を投入。

その後、メンドーサ死刑囚は10回ほどいびきをかいた後、動きが止まった。

午後6時40分、死亡が確認された。

執行に立ち会ったAP通信のマイケル・グラチェク記者は、これまで400人以上の処刑に立ち会ってきた。

AP通信 マイケル・グラチェク記者
「メディアが立ち会って監視することは絶対に必要です。当事者ではない誰かが、死刑が法律に則って行われていることを確認する必要があるからです」

娘を殺した男の最期に立ち会った、トールソンさんの母親が記者会見を行った。

トールソンさんの母親
「私のたった一人の娘は、とびきりの人気者で、いつも笑顔で、ちょっと内気な娘でした。メンドーサは20年間、死刑囚でしたが、きょうそれが終わりました。彼は何の痛みもなく眠りました。私の娘はそんなふうには死ねなかったのに」