長距離や休日の乗務を意図的に与えない

「配車差別」とは、特定の運転手に対し、長距離や休日の乗務を意図的に与えないという措置だ。

松尾さんは、入社して3年ほどで班長に抜擢されている。責任あるポジションで長年勤めた会社から配車差別を受けるようになったのは、会社に「労働環境の改善」を求めたことがきっかけだった。

松尾さんが勤める東輪ケミカルは、東京に本社を置く企業のグループ会社だ。グループ内には、岡山や神戸、大阪などに運送会社があるが、東輪ケミカルはそこと比べても給与水準が低かった。

10数年勤めて後輩の育成に取り組むようになると、給与水準の低さに対する疑問がふつふつと湧いてきたという。

トラック運転手 松尾宏忠さん「東輪ケミカルは、給与ベース自体が全体的に低いんですよ、全社的に見ても、グループの中で給与が低いんですよ。『若い人、今から必要とされる人間が入ってこないよね』ということになって、今後のために職場改善を少しでもやっていこうという気持ちになりました」

2019年8月、松尾さんは所属する営業所の同僚運転手19人をとりまとめ、「乗務員の待遇改善に関する要望書」を当時の上司である所長に提出した。

まずは「グループ会社間の給与格差をなくすこと」などを求めたが、会社側は受け入れず、「配車差別」をちらつかせた。

松尾さんたち運転手の給与は大きく分けると、毎月14万5000円の固定給と走行距離に応じた変動給がある。長距離や休日出勤がなくなれば、当然、給与は少なくなる。

この時点で運転手19人のうち16人が「会社に要求すること」からおりた。