記者
「検体を捨てるなど、信頼できないような検査をしているのは、検査の信頼を損ねているのではないですか?」


検査業務を取り仕切っていたX氏
「それはそうかも知れないですけど、途中までまともにやっていましたし。完全な検査を最後までやるというのは正直難しかった。こちらの落ち度もありますけれども」

最初はまともな検査をしていたが「途中から検査が不完全になった」と話したX氏。一方、存在しないクリニックの名前を使って検査所を開設したことについては…

検査業務を取り仕切っていたX氏
「本来なら開設届を出しているものと思って神奈川などに無料検査所の申請を出しているんですね。みんな開設届けを出しているものと思ってスタートしているんですよ」

X氏は「クリニックが一旦閉院した後、改めて開設届が出されたと思い込んでいた」と主張した。

Xが関わった無料PCR検査所への補助金は、結局支払われなかった。各自治体に内部通報があったためだ。

だが、安心安全な検査を担保するためには医療機関などとの提携が欠かせない。X氏が関わった無料PCR検査所が設置されていた4つの県のうち、神奈川・埼玉・福島の3県は検査所の登録を取り消した(宮城県は取材に応じず)。

■無料PCR検査所開設にあたり投資も 「老後の資金だまし取られた」

その後の取材で新たな問題が明らかになった。

「徹底的に、稼ぎます」 

X氏が作成したとされる資料に書かれていた言葉。

X氏は無料PCR検査所の開設にあたって、検査機器購入の名目で複数の投資家から投資を募っていたのだ。

私たちはX氏に600万円を投資したという男性に会うことができた。関西に住むこの男性は、知人を通じてX氏と2022年2月に知り合ったという。

X氏に600万円を投資した男性(60代)
「検査の機械を購入したいけど、資金がないので援助をして頂きたいと。多くの患者さんが困っている、苦しんでいる、助けるため一端になると思って投資した」

X氏は「月に200万円から300万円の利益還元が可能だ」と話したという。ところが投資した後、約束された“配当”は振り込まれずX氏は音信不通に。不審に思った男性は東京・六本木にあるはずの「プライベートクリニック六本木」を見に行ったという。ところが…

X氏に600万円を投資した男性(60代)
「六本木のクリニックに行ったらドアは閉まっているし、中で仕事をしている気配はない。もうおかしいなと。老後の資金ですよ。余裕があってのものではないです。老後の資金をだまし取られた思いです」

この男性と同じように投資に応じた人は30人以上。X氏が集めた金額は数千万円に上るとみられている。

■アルバイトにも給料・交通費未払い 投資家は刑事告訴を検討

さらに、別の問題が。埼玉にあるX氏が関わった検査所。そこで2022年3月に受付などのアルバイトを始めたという大学生の男性。

さいたま市の検査所でアルバイトをしていた大学生
「給料は未払いで、電車賃とかも頂く予定でしたがまったく振り込まれず」

給料や交通費が支払われず、検査所は男性が働き始めてから約1か月で閉鎖された。

さいたま市の検査所でアルバイトをしていた大学生
「『PCR検査所を閉めることになりました』という連絡が来ましたね」

突然働き口を失ったうえ、給料も未払いのまま。

さいたま市の検査所でアルバイトをしていた大学生
「最初はびっくりしちゃって、元々未払いの問題とかはニュースで耳にはしたことはあったが、実際に自分がなるとは思っていなかったので、今は憤っている」

男性によると、未払いは少なくとも20人のアルバイトにも及んでいるという。男性は会社に説明を求めてきたが、今は連絡が取れていない。

X氏はどこに行ったのか。私たちは再び、電話で連絡を取ることにした。ところが…

コール
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」

私たちは、再びX氏を探した。X氏が別の会社を経営しているという情報を得て向かうと…応答はなく、会社はなかった。行方が分からないままのX氏。X氏は以前取材に対し、「投資された金の一部は返している」と主張していた。X氏に600万円を投資した男性は…

X氏に600万円を投資した男性(60代)
「私は一銭も返ってきていないですよ。もう許せないです。PCR検査をちょっとでも増やして、世の中に貢献するんだというね、人の善意を踏みにじるような行為ですよね」

男性は同じようにX氏に投資した人たちと連絡を取り合い、警察に相談をしていて、刑事告訴を検討している。

■自治体は検査所開設時に書類の提出求めず

赤荻歩キャスター:
なぜ存在しない病院の名前で検査所を作ることができたのでしょうか。

神保圭作記者:
無料PCR検査所を開設する場合、事業者が自治体に申請をするわけですが、その際自治体は医療機関が実際に存在することを証明する書類、例えば開設届などの書類の提出を求めていませんでした。

今回の事態を受けて、取材に応じた神奈川・埼玉・福島の3県は、こうした書類の提出を義務付けました。

赤荻キャスター:
結局4つの県にあった問題の検査所では、どれくらいの数の検査が行われたんですか?

神保記者:
実態はわかっていなくて、唯一神奈川県が、少なくとも1800件の検査が行われていることを確認していますが、これらの検査が適正だったかどうかは、調べたけれども検査業務を取りまとめているX氏と連絡が取れず「確認できなかった」としています。

村瀬健介キャスター:
無料PCR事業は1件の検査あたり1万円前後の補助金を国から受け取れるので、検査の数が増えれば増えるほど受け取れる補助金の額も当然増えます。ところが、何件検査を行なったかというのは業者側の自己申告になっていて、申請の段階ではどこの誰が検査を受けたかまではチェックされないということです。そこに不正が入り込む余地があったのではないかとも考えられます。