トランプ氏への接近には、マスク氏を意識?
ベゾス氏はもともとトランプ氏と対立していましたが、現在は融和的な姿勢を示しています。トランプ氏の勝利を祝福する声明を出したり、大統領就任式へ参加したり、就任基金への寄付を行ったりしました。
この背景をさらに探っていくと、トランプ氏との関係の深い起業家であるイーロン・マスク氏につながります。
Xのオーナーであるイーロン・マスク氏は、宇宙開発分野において、ベゾス氏のライバルです。ベゾス氏は「ブルーオリジン」という宇宙開発事業を行っているので、ベゾス氏が率いる「スペースX」に後れを取ってはいけないことから、トランプ氏との連携を強めようとしていると推測されています。
このように今、メディアオーナーである起業家たちと現場は半ば緊張関係がある状況になっています。
まずビジネス面では、元々2010年代にテック系企業が様々なメディアを買収した際には、これによって売上が回復して伸びるという期待がありました。一方で、蓋を開けてみると、伸びたメディアはほとんどありません。
ワシントン・ポストでは2023年末に数百人規模の大規模な人員削減が行われており、その中にはこれまで会社のジャーナリズムを支えてきたスター記者もたくさん含まれていたということから、従業員からの不満が上がっていました。
要するに、「テック企業によって何かが変わっていく」という期待感が、現時点では残念ながら期待外れに終わっています。そしてリベラル的な価値観を大切にする編集部に対して、トップがトランプ政権にどんどん接近したことで大きなハレーションが起きていることが浮き彫りなってしまいました。
メディア経営と編集権の独立の超えてはならない一線
私(野村)の前職は、「NewsPicks」という会社でした。その会社も構造上は、スタートアップ起業家が立ち上げた経済ニュースメディアです。つまり会社のオーナーはもともとメディア分野ではなく、テクノロジー分野の出身です。新しい事業としてメディア、しかも報道をしていくことでメディアを立ち上げて、そこにメディアのプロである記者や編集者、新聞や雑誌出身など、様々なメディア経験者を集めて編集部を作りました。
このとき、最も議論をしたことが編集権の独立です。会社の経営陣やビジネスがどうであれ、何を取材をして、何を報道するかということは基本的に編集部に委ねられるという概念です。 今回の場合に照らし合わせると、大統領選をきっかけに編集部へ干渉してしまったことが確かだとすると、一線越えてしまってるなということを私は結構強く思いました。一線を越えた経営者はメディアの経営はしてはならないと思います。
アメリカの大手メディアでさえ、このような事態に陥ってしまうことに、編集権の独立を守る難しさを改めて感じられるニュースだと思いました。今まで自由を守ってきた言論機関で、バックラッシュが今起きているという事例でした。
<野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。