追いつめられる妊婦 深刻な事態も
熊本の産婦人科・慈恵病院。ここは2007年に「こうのとりのゆりかご」、いわゆる赤ちゃんポストを日本で初めて設置した病院だ。

開設から18年。これまでに180人以上の 赤ちゃんが預けられてきた。
この病院に月に1度きて、妊産婦の精神的サポートをする精神科医の興野康也氏。「予期せぬ妊娠」で追いつめられる女性たちには、複雑な生育環境が共通しているという。

精神科医 興野康也氏
「虐待やいじめを受けたり、DVを受けたりする中で、人に心を開くのが怖い。人に何かを言っても痛めつけられるだけだと学習している人も多い。相談してくださいと言われても、相談すること自体が怖いし、またもっときつくなるじゃないんかと不安になってしまうので、なかなか相談できない」
母親が孤立出産の末、乳児を遺棄する事件は後を絶たない。興野氏は、子どもを死に至らしめた女性たちの裁判に精神科医の立場としてかかわる。彼女たちの抱える、ある特性が見えてきたという。
北海道千歳市。2022年6月、駅のコインロッカーから赤ちゃんの遺体が見つかった。

殺人と死体遺棄の罪に問われたのは、当時22歳の母親。幼いころから、いじめに悩みリストカットを繰り返した。社会に出てからも、仕事が長く続かず、人間関係で揉めるようになったという。
その後、交際相手に金を要求され、性風俗の世界に飛び込んだ。客に「本番行為」を強要され妊娠し、誰にも知らせずホテルで出産。産まれたばかりの我が子を手にかけた。
興野氏は、更生支援の方向性を考えるため、弁護側の証人として、彼女の精神鑑定を行った。

精神科医 興野康也氏
「鑑定結果としてあったのは、境界知能とADHDグレーゾーン」

平均的なIQと知的障害の診断を受けるIQの狭間を境界知能という。そして、ADHD=注意欠陥・多動性障害のグレーゾーンにあると診断。基準を満たさなくとも、一部症状がある状態だという。

精神科医 興野康也氏
「グレーゾーンの人は、周りが気づかない、本人も気づかない。それでいて社会生活上、仕事・お金・人間関係で困ってしまって、不幸なことになってしまうことが多い」
興野氏が携わった事件は、高松でも。自宅アパートの押し入れに、出産した3人の乳児の遺体を次々と遺棄した、女性の裁判員裁判。
興野氏はこの事件でも、弁護側の証人として被告の精神鑑定を行い、「ADHD」と診断した。
精神科医 興野康也氏
「必ずしも量刑を上げる下げる意味ではない。実際どういうことが起きて、本人がどういう意思決定をして、どこで失敗したかというのをみるには、精神科的な分析が必要だと思った。および本人の量刑が決まった後の支援にも絶対不可欠」
父親が責任を放棄できてしまうのも、大きな問題だと指摘する。

精神科医 興野康也氏
「孤立出産は生物学上、男性の関与がある。男性は出廷すらしない、まったく罪にも問われない、もちろん注意も受けない。女性だけ懲役何年というのは普通に考えてアンバランス」