「除染土」の負担 福島だけに?

藤森祥平キャスター:
原発事故に伴う除染で出た土「除染土」について、中間貯蔵施設にある4分の3は、公共事業などで再利用し、残りは福島県外で最終処分する方針が法律で定められています。

この再利用する除染土は、1キロ当たり8000ベクレル以下としています。IAEA・国際原子力機関は「安全基準に合致している」としていますが、不安が残る現状です。

小川彩佳キャスター:
実証実験も行われていないという中で、この除染土の再利用は進んでいくのでしょうか。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
本来は低レベルの放射性廃棄物として扱うべきものを、再利用という形で処理するやり方は、やはりおかしいし、その地域の住民から不安の声が出るのも当然だと思います。

一方で、福島の現在進行形の問題に対する関心を、多くの国民は忘れていて、最終処分の問題についても考えていないと思います。あえて全国に放射性物質を拡散させることで、この問題に対する主体性を国民に持たせようと環境省が考えているのであれば、それは評価すべきことかもしれません。

小川彩佳キャスター:
福島県内の中間貯蔵施設に、今もずっと除染土が留め置かれている状態は、解決しなければなりません。原発事故の取材を長年続けるテレビユー福島の木田修作記者にもお話を伺います。除染土の最終処分場も再利用先も決まっていない状況ですが、福島では実際どんな声が聞かれますか。

テレビユー福島 木田修作記者
県内では、除染土の最終受け入れ先になる県外で議論すべきだという認識が多いように思います。その上で、2023年の処理水放出の時期に、福島県内で除染土の問題への関心が高まりました。処理水の放出は、「関係者の理解なしに放出しない」という約束があったにもかかわらず、放出が決められました。これに除染土の将来を重ねた人も少なくありません。同じことが繰り返されるのではないかという危機感を持った人が多いように思います。

震災からまもなく14年になりますが、政府は未だに理解を醸成する段階にいます。土地を提供した大熊町・双葉町の住民の危機感は相当強いように感じます。

藤森祥平キャスター:
環境省が2024年、福島県以外の約3000人を対象に除染土の処理をめぐる認識のアンケート調査を行いました。

「2045年までに除染土を福島県外で最終処分するという決まりを知っていますか」という問いに対し、“内容は知らない”と答えた人は75.2%でした。

また、「自分が住む地域で除染土を再生利用してもいいと思いますか」という問いに対し、“良い”“どちらかと言えば良い”という肯定的な意見は、20.9%でした。

小川彩佳キャスター:
こうした状況の中で、福島市の木幡浩市長は「国がしっかりと県外処理についての理解を求めて取り組みを加速すべき原発の恩恵が大きかった地域で、例えば国会議事堂や都庁で使うとか、少しずつ理解を広げていくことが先ではないか」と発言されています。

あえて木幡市長が踏み込んだ発言をするには、様々な思いの逡巡があったのだと感じます。このメッセージを受け止めなければならないですよね。

テレビユー福島 木田修作記者:
福島の人たちは、除染土の処理を県外に押し付けるとか、県外と対立したいわけでは決してありません。ただ原発事故で最も過酷な被害に遭った場所が、未だに負担を強いられているという状況にもどかしさを感じているんだと思います。

福島市長の発言も、双葉町長の発言も、最終処分に向けた議論が進まない現状に対して、一石を投じたい思いからだと考えるべきだと思います。

藤森祥平キャスター:
こうした中で、2月には2040年度のエネルギー基本計画で、原発の割合を増やすことが、閣議決定されました。原子力を最大限利用するという形で、2023年度は、8.5%(速報値)でしたが、2040年度には2割程度まで増やす見通しです。これを閣議決定で済ます動き自体が、理解が広がらないことに繋がっているようにも感じます。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
最終処分場も決まらないまま、再稼働させるやり方は非現実的です。新設もできない中、年限を超えて稼働させれば、リスクも高まります。昨今電気代が高騰しているので、原発を動かすべきだという声もありますが、そういった考えは、今のその福島の方たちの苦しみや思いを踏みにじるものになってしまうのではないかと思います。

テレビユー福島 木田修作記者:
福島の人たちは、かなり複雑な思いを持ってこの原発回帰を見ています。先日私が取材した方は、原発事故の後一度も自宅に帰ることなく、今も避難を続けている方でした。その方は、「事故前と同様に原発を動かすということは、私たちの姿が見えていないんじゃないか。この14年間はなんだったんだろうかという思いにさせられる」と話していました。

除染土の処分という原発事故の後始末も付けられていない状況で、原発回帰するわけですよね。事あるごとに国が話す「事故の反省」が、どこにあるのか。日々取材をしていて疑問に思わざるを得ないです。

小川彩佳キャスター:
そういった意味でも、原発事故はまだ終わっていないということですよね。

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<プロフィール>
斎藤幸平 さん
東京大学准教授。専門は経済・社会思想
ドイツ在住 著書『人新世の「資本論」』