志願者には注目の14歳や元日本代表の55歳も

2025年2月15日、1度目のセレクション(トライアウト)が、横浜市戸塚区のKPI-PARKで開催された。晴天に恵まれ”ピックル”日和の中、30人を超えるチャレンジャーがエントリー。10代から60代と幅広いプレイヤーが集まった。競技を知ってから1年未満の選手も数多く存在。中にはまだ数回しかプレーしたことがないと語る選手もいた。プロをも目指そうとするプロジェクトのセレクションにおいて、競技歴が少なすぎるのには違和感も覚えるが、その場に現れたのは、他競技ではずば抜けた実績を残していたり、フィジカル的には申し分のないアスリートたちであった。一様に、ピックルボールで世界と戦いたいとの強い想いを秘めていた。

セレクションのメニューは、基礎練習に加えダブルス、シングルスを行う3時間弱のプログラム。この日は朝9時から始まり3回のトライアルが実施され、全て終了したのは18時。ダニエルは「自分は全くプレーしないのに、こんなに長くコートに立つことはなかった」と笑った。

プロジェクトが動き出し、挑戦者募集からわずか1か月でセレクションは行われている。初日の朝一番枠への応募者は5人と少なめだったが、少数であったことが逆に緊張感を高めていた。ダニエルコーチの顔見知りも参加しているが、選考については贔屓はない。細かな動きまでチェックするための鋭い視線が送られていたが、挑戦者たちは徐々に緊張がほぐれると次第にプレーを楽しむようになっていた。

2回目以降のトライアルでは、選考するダニエルコーチらスタッフ陣も幾分緊張が和らいだように見える。練習の冒頭に、ダニエルはやさしく語りかけながら選考をスタートさせる。「皆さんの、ピックル歴とかは色々ですけど、今のレベルだけではなくて、これからどのくらい頑張るとか、どんな目標を持っているかとか、総合的に色々見たいと思いますので、最初から最後まで頑張ってください」。

昼の回には、16人が参加した。そのなかに書類選考時から注目の選手がいた。14歳の佐脇京さん。全国小学生テニス選手権で準優勝など、すでにテニスでは数多くの輝かしい実績を誇っていて、ダニエルも最近コーチングしたことがある選手で、そのセンスが本物か注目をしていた。

佐脇さん

プロジェクトでは男女6人ずつが選考される予定だが、男子に比べて女子選手の応募数は少ない。少ない応募者の中に鍛えるべき逸材があらわれるか、課題でもある。この回には、とても元気な女子高校生もいた。ソフトテニス経験はあるが、現時点で特別にスポーツをやっているわけではなかった。高校卒業後、何をしようか迷ったときピックルボールを知って頑張ってみようと決意し、プロジェクトに応募した。競技歴は3か月だが、男子選手に交じってパワフルなプレーを披露するなど、いきいきとトライアルに挑んでいた。「お父さんお母さんには、もし受かったらアルバイトも辞めてこれ1本でやるって言ってきました!」と明るく話す。実に多様な選手たちが挑戦している。

注目の14歳、佐脇京さんだが、シングルスの対戦では上記の女子高生にも勝ち、センスの良さを見せつけていた。テニスでは実績のある佐脇さんも、ピックルボールに初めて触れたのは去年の10月。まだ数えるほどしか練習はしできていないというが、驚きのプレーだ。今は選考中でもあり、特定選手の評価はあまり口にしないダニエルも、その将来性に大きな期待を寄せている様子だった。

「ピックルボールに出会って、今は両立させたい気持ち。ピックルボールに出会ったのは去年の東レPPOテニスの会場で行われてたイベントで、体験して、そこからはじめました。ピックルボールに出会ってからはテニスと両立させたい気持ち。隙間時間もYoutubeでピックルボールの試合をみて、イメトレして頑張っています。今日、シングルスを初めてしたが、ダブルスとは違う面白さ。テニスもシングルスメインなので活きたかな。ゲームも楽しめた」

午後3時から始まったこの日3回目のトライアル。そこにはかつてテニスで日の丸も背負ったことのある老練な選手の姿があった。「デビスカップも出てます。全日本もダブルス4回優勝してます。30年以上前ですけど」と笑いながら話したのは佐藤哲哉さん、55歳。

佐藤さん

ピックルボールは年齢に関係なく老若男女が楽しめるスポーツだと評されることが多い。大会は、細かく年齢分けされたカテゴリーが用意されており、スコアリングシステムによって管理された選手個人個人のスキルに合わせて試合を組むことができるので、幅広い層で同じ競技レベルの選手と対戦できる仕組みもある。それも人々をひきつける魅力となっている。アメリカでは50歳以上のシニアカテゴリーも盛んで、大勢のプレーヤーがハイレベルな試合を行っている。佐藤さんは、シニア枠ではあるが基礎がしっかりしているのでこれからも伸びると見られ、スタッフの目が止まるシーンが多くあった。

「ダブルスの試合をしたら、テニスに似た部分と全く違う部分があって、考える力を養える気がして、ピックルボールにハマっています。試合に出たい気持ちがあって、年齢は行っているのですが応募しました(笑)」

プロジェクトの応募に年齢制限はない。選考スタッフは10年後にも活躍できる選手であれば年齢は関係ないと、制限は設けなかった理由を語る。アメリカでは60歳でも優勝メダルを手にして生き生きと表彰台にあがるシーンが当たり前に見られる。そこに、日本人選手が割って入る日もあるのでは、と想像させられた。