TBSテレビでは「春の皇室スペシャル プリンセス愛子さま“初めてづくし”の1年」という番組を制作中です。天皇皇后両陛下の長女・愛子さまは昨春に大学を卒業し、日本赤十字社に就職されました。さらに一人でのご公務も増え、いろいろと初めての体験をされていて、その中でのエピソードを軸に構成する番組になっています。

宮内庁大膳課が代々受け継いできた味

園遊会の参加者と歓談される愛子さま

たとえば昨年の秋の園遊会は、初めて和装でのご公務となりました。桜色の振り袖で、招待されたオリンピック選手たちと歓談される様子は初々しくも楽しげで、ニュースや情報番組で取り上げられました。また宮内庁が昨年から始めたインスタグラムでも、その晴れやかなお姿を観ることが出来ます。

今回の番組ではこの宮内庁のインスタグラム制作チームにメディアとしては初めて密着して、園遊会の様子をどのように撮影しインスタグラムにアップするのかを追いました。その制作チームが捉えていた映像の中に「ジンギスカン」があります。もちろん料理のジンギスカン。実は園遊会の隠れた名物が、このジンギスカンなのです。皇室スペシャル番組でもかつて取材したのですが、使っている羊肉は栃木県にある宮内庁御料牧場で育てられたサフォーク種。

御料牧場で飼育されているサフォーク種の羊

生後1~2歳のホゲットと呼ばれるもので、仔羊の柔らかさとマトンの美味さを兼ね備えていると、当時は聞きました。

宮内庁御料牧場

実はジンギスカンの発祥地については「北海道説」と「成田説」があるのですが、成田説は御料牧場と関係があります。昭和40年代に現在の栃木県に移転するまで、御料牧場は千葉県成田の三里塚にあって、大正期に町の人々を招待してジンギスカンを振る舞ったという記録があるそうです。そうした経緯から、成田には「緬羊会館」(現在は閉店)などのジンギスカンの名店が多く生まれ、発祥地のひとつとされるまでになったわけです。

園遊会のジンギスカンで使われるのも御料牧場の羊

この御料牧場の羊肉に合わせるタレも特別です。宮中の料理を司る宮内庁大膳課に代々伝わる秘伝のタレ。ずいぶん前になりますが、大膳課で西洋料理を担当した渡辺誠さんに、このタレを再現してもらったことがあります。すでに宮内庁を退職されていた渡辺さんに、特別にお願いしたのですが、
「全く同じものは無理ですよ」
と言いながら作ってくれました。

園遊会の名物ジンギスカンとタレ

園遊会で使うタレは長期間熟成させたものだそうで、同じレシピで作ってもすぐには同じ味にはならないそうです。それでも味見させてもらうと、ビックリするほどの美味しさ。これがさらに熟成したら一体どんな味になるのか・・・それを体験するためにはオリンピックで活躍するなどして園遊会に招待され、あのジンギスカンを食べるしか術はありません。

渡辺さんは宮内庁を辞めた後、料理の教室を開き、著書を出版するなど活躍されました。ある年のクリスマス、渡辺さんが作ったディナーに招待されたことがあるのですが、そのときに出てきたローストチキンは今まで食べた中で最も美味しいものでした。スパイスの風味が強い赤ワインを使っているとのことで、香ばしく焼き上がった皮にスパイスの風味があって、もちろん赤ワインにぴったりでした。話も洒脱で面白く、宮内庁大膳課が生んだフレンチの名シェフでしたが、2003年にまだ50代の若さで鬼籍に入られました。

しかし渡辺さんたち、大膳課のみなさんが代々受け継いできた味は、今も園遊会で招待された人々を楽しませています。こうした文化を、ネット時代の象徴ともいうべきインスタグラムで伝える・・・皇室の持つ伝統と新しさの融合を見ることが出来ます。

ジンギスカンを撮影する宮内庁インスタグラム制作スタッフ

宮内庁のインスタグラムは昨年4月にスタートしたのですが、すでに190万近いフォロワーがいて大人気です。ちなみに私たちTBSテレビ皇室スペシャル番組制作チームもX(旧Twitter)を始めました。Xで「TBS」「皇室」で検索してみてください。

番組ではジンギスカン以外にも、宮内庁インスタグラム制作の舞台裏に迫っていますので、ご期待ください。

執筆者:TBSテレビ「春の皇室スペシャル プリンセス愛子さま“初めて尽くし”の1年」プロデューサー 堤 慶太