80年ぶりのモンゴル文字復活

2020年、中国国内での抗議活動に呼応するようにモンゴル国でも「モンゴル語を守ろう」というキャンペーンが展開され、瞬く間に世界各地に広がった。キャンペーンを主催したNGOは、中国政府の弾圧から逃れてくる内モンゴル自治区の人たちを助ける活動も行ったという。

NGO「言語を守ろう」 バーサンジャルガルさん(33)
「モンゴルでは『命より名誉が大事。名誉とは言葉や文化を守り抜くこと』です。命をかけてモンゴル語を守ります」

市民たちも、中国の状況に胸を痛めていた。

モンゴルの市民
「民族を絶滅させるためには、まず言葉に手をつけてくるのです。とても残念です」

モンゴルの市民
「(内モンゴル自治区の人には)いつまでもモンゴル語を学び続けてほしいです。あきらめずに抗議し続けてほしいです」

実は、モンゴル国で暮らす人々の多くは「モンゴル文字」が読めない。長らく旧ソ連の強い影響下にあったため、1940年代「モンゴル文字」にかわりロシアで使われている「キリル文字」を導入したからだ。

確かに、街で見かけるのは「キリル文字」ばかり。「モンゴル文字」はほとんどない。

中国国内で進む急速な「モンゴル語消滅」の動きは、モンゴル政府のある決断を後押しすることになった。それは…

言語政策国家委員会  ナランゲレル事務局長(36)
「2025年1月1日からモンゴル文字とキリル文字で公文書を作成すると決めました」

ウランバートル市内で暮らす、トブさん。日本に3年間留学し、今は日本人観光客向けのガイドをしている。

トブさん(35)
「これは縦文字(モンゴル文字)ですね。モンゴルの昔の文字」

Q.縦文字(モンゴル文字)は読めない?
トブさん

「すごく恥ずかしいんですけど、読めないです。みなさんのような外国の方から(モンゴル文字は)格好いいですよ、なぜ今キリル文字なんですか?といわれると、すごい恥ずかしくて」

トブさんは今、独学でモンゴル文字を勉強している。

トブさん
「私たちが何ができるのかというと、私が縦文字(モンゴル文字)を勉強したり、正しいモンゴル語で話をしたり、その本質的な本当の価値を次の世代に伝えていく。私たちにできることはそういうことなんでしょうね」

モンゴル文字を使い続けてきた中国の内モンゴル自治区は、文字や文化が保存されている“特別な場所だった”と、トブさんは考えている。

トブさん
「縦文字(モンゴル文字)でものすごく早く、正確に読んだり書いたりできるというのは私からみるとすごいなと思いますよね。格好いいなと思います。ああならないと、私たちが恥ずかしい」

モンゴル国で暮らすモンゴル人は約330万人。一方、内モンゴル自治区には400万人が暮らしている。もし、内モンゴルからモンゴル文字が消えてしまったら。危機感は強い。

モンゴル政府は今後、公文書だけでなく、道路標識や看板などにも徐々にモンゴル文字を広げていく方針だ。

80年ぶりの「モンゴル文字」復活の動きは、教育現場でも広がっている。

この学校では小学校6年生から高校3年生が週2回、モンゴル文字を学んでいる。先生の悩みは、日常生活の中でモンゴル文字に触れる機会が少なく、生徒がすぐに忘れてしまうことだ。それでも生徒たちは、自らの民族の歴史と文化を再確認するように、積極的に学んでいる。

Q.モンゴル文字を学ぶのは楽しいですか?
生徒

「はい。モンゴル文字を学ぶと自分の文化を改めて勉強できるので、キリル文字を学ぶよりも気分がいいです」

忘れられた「モンゴル文字」を取り戻そうとする、モンゴルの人々。モンゴルで始まった「モンゴル文字」復活の動きは、一度失った言葉を取り戻すには長い年月がかかることを教えてくれる。