「交際相手の家のごみ箱に死産した赤ちゃんの遺体を遺棄した」として起訴され被告人となった20歳のベトナム人技能実習生の裁判。

妊娠の事実を誰にも知らせず、検診にも行かず、ひとり出産するー「孤立出産」ののち死体遺棄の罪に問われた実習生に、検察側は懲役1年6か月を求刑した。

最大の争点は、死産した直後にとった行為が「遺棄」にあたるかどうかだ。

一方でこの裁判は、「母子を救う術はなかったのか」という問いも突きつけている。

弁護側は、最終弁論で「死産という絶望にある女性にまず求められるのは、司法的アプローチではなく、肉体的精神的なケア、福祉的アプローチだ」と訴えた。

交際相手の家で死産した赤ちゃんの遺体をごみ箱に遺棄したとして起訴

死体遺棄の罪に問われているのは、ベトナム国籍の技能実習生グエン・テイ・グエット被告(20)。起訴状によると、グエン被告は2024年2月、福岡市にある交際相手の家で死産した男の赤ちゃんの遺体をビニール袋に入れ、ごみ箱に遺棄したとされている。

帰国を免れようと孤立出産 「遺棄していない」と起訴内容を否認

画:小田啓典

これまでの裁判でグエット被告は「まったく違います。遺棄していません、無罪です」と起訴内容を否認。法廷で当時の心境について証言した。

グエン・テイ・グエット被告(20)「妊娠に気付いた時はとても心配しました。ベトナムの父と母のこと。それと帰国させられると。とても怖くて誰にも相談できなかった。(送り出し機関などから言われていたのは)ひとつは『恋愛をしてはいけない』。『異性の所へ行き来するのはだめ』。日本に行く目的はお金を稼ぐことで妊娠してはいけないということです。中国人の技能実習生が妊娠して帰国させられた話もされました」

ベトナムの家族の生計を助けるために実習生として来日したグエット被告にとって、帰国させられることは何としてでも避けたかった事態。死産したのは、来日前の元交際相手との子供で、勤務先にも交際相手にも誰にも相談できなかった。そして、病院を受診することもなく一人で出産した。

検察「お腹の子の健康や安全よりも稼働することを優先」

15日に行われた論告求刑公判。これまでの裁判と同様、傍聴席は支援者などで満席だった。

検察側は、グエット被告について、「帰国させられることなどを恐れ誰にも相談せず出産し、遺体を遺棄した」と主張したうえで、「父親に多額の借金をしてもらって来日していたたため、お腹の子の健康や安全よりも本邦で稼働することを優先させた」などと述べた。