「夢の物質」が引き起こした悪夢
PCBとは「ポリ塩化ビフェニル」の略称で、人工的に作られた主に油状の化学物質だ。熱に強い、酸に強い、燃えない、電気を通さない、水に溶けにくい。

化学的に安定しているPCBは、長期間利用される工業用オイルなどとして理想的だった。「夢の物質」とも呼ばれ工業用品、家庭用品、ありとあらゆるものに使用されていた。商品名は「カネクロール」。
カネミ油症事件
1968年、PCB「カネクロール」が混入した市販の油によって、大規模な食中毒が起きていることが発覚した。「カネミ油症事件」である。

福岡県北九州市にある製油会社「カネミ倉庫」は、PCBを循環させたパイプを食用油のタンク内に設置し、効率的に加熱していた。そういう商品としても、PCBは売り出されていた。
そのパイプに穴があき、食用油に混入した。穴が開いた原因はPCBが原因でパイプが腐食した「ピンホール説」とカネミ倉庫の「工事ミス説」、あるいはその両方という説がある。

店などで購入して料理に使いPCBを食べてしまった人たちには、痛がゆくて臭い吹き出物が現れた。見えない陰部に現れた人も多かった。痛さと恥ずかしさ、悔しさ。目やに、頭痛、下痢、脱力など、症状は食べた量、体質によって千差万別で苛烈なものだった。