“アサド派への報復”怯える人々

アサド政権に対する憎しみが自分たちに向かうことを恐れる人々がいる。

増尾記者
「この辺りはアサド前大統領と同じ宗派の少数派・アラウィの方々が住む地区。他の中心部よりも、人の姿が少ないように見えます」

ここは、ダマスカス西部にある、住民の7割がアラウィ派の地域だ。

アラウィ派は、アサド前大統領が属するイスラム教シーア派の一派で、人口の1割ほどと少数派だが、軍や警察などの権力の中枢に多く登用されてきた。そのため、怒りの矛先が、アラウィ派へ向かっているのだ。

アラウィ派の街でも、アサド前大統領のポスターは破られ、シャッターに描かれた前の政権下での国旗は、ペンキで塗りつぶされていた。アラウィ派の人々からは不安の声が相次ぐ。

アラウィ派の住人
「私たちが今恐れているのは報復です」
「報復が行われると思いました。子どもを連れて故郷に避難していました。恩恵を受けていたのはアサド家やその親族などごく一部で、残りのアラウィ派はみな飢えていました」

ダマスカスの旧市街。政権崩壊から1週間あまりの市場は、朝から活気づいていた。

増尾聡記者
「反体制派がこれまで使ってきている旗がずらりと売られています」

市民
「国が良くなってほしい。観光客やすべての宗派の人を歓迎します」

将来のシリアへの期待の声が多く聞かれた。

街では治安維持にあたる迷彩服を着た戦闘員の姿が目立つ。彼らは政権を倒した「シリア解放機構」のメンバーだ。

増尾記者
「戦闘員はこの国では今、英雄視されているので、市民が駆け寄り写真撮影を頼んでいます。一方で彼らの元々の母体はイスラムの過激派であり、今後この国をどう統治していくのかが非常に注目されています」

今後のかじ取りを担うのが、「シリア解放機構」の指導者・ジャウラニ氏。かつては過激派組織「アルカイダ」系のメンバーだ。

「シリア解放機構」は国連などからテロ組織に指定されているが、政権崩壊時の声明では…

「あらゆる宗派のシリア人にとって、自由で独立したシリアが永遠であることを願う」

放送大学高橋和夫名誉教授
「今のところは、新しい指導者は、全宗派のためのシリア、すべてのシリア人のためのシリアだと。そのメッセージはいいが、主要メンバーを見ると、みんなスンニ派、アラブ人ですよね。クルド人はいないし、キリスト教徒はいない。もう少し人事の面でより包含的な、みんなを抱え込むというシステムを作らない限り、各宗派の納得は得られないと思う」