午前2時の目覚ましは「“ピ”で止めなきゃいけない」

イチローが仲間と寝起きした寮は、今も使われている。中に入るのは、卒業以来はじめてのことだった。

イチロー:上級生の機嫌でね、醤油を使わせてもらえないんですよ。醤油禁止は結構あったんですよ。マヨネーズ禁止もあったかな。マヨネーズと醤油が混ざるとおいしく、というかなんとか食べれるようになるでしょ。マヨネーズ禁止、醤油禁止、だからおいしいものは禁止。そういう時代でね、このテーブル見るとそれしか思い出さない。

“醤油とマヨネーズ禁止”の苦い思い出

イチロー:お風呂は変わってないね。浴槽大きいね。同じだな。僕がね、ここで3年になって誰よりも早く洗い始めるんだけど、こうやって座ったら、ここに(交流試合で来ていた)松井秀喜が座ってたんですよ。ここですよ。先にもうなんかやってたんですよ。あいつ2年でしたからね(笑)

そして、最もキツかった場所。2段ベッドが並ぶ寝室だ。

イチロー:同じだ。ここは2年の時か。この(ベッドの)上にいましたね、僕。よくこれ壊れないで、30何年でしょ。50人の大部屋なんで、目覚ましで上級生を起こしたらえらいことになるんですよ。僕は2時に目覚ましかけて、そこから洗濯を始めるんで。

記者:午前?

イチロー:午前です。なかなか「ピピピピ」って音がどうしてもなっちゃうじゃない?でも、「ピピピピ」までいくと誰かが起きちゃうんで、「ピ」で止めなきゃいけない。これやんなきゃいけないんですよ。

記者:それ寝られてないでしょ。

イチロー:緊張感あるからあんまり寝られないわけですよ。でも洗濯機の争い、乾燥機の争いをしたくないんで、独り占めできる時間帯は夜中しかないんで、それを選んだんですよね。

苦しいときこそ、考えてきた。鈴木一朗は、ここで三年を過ごしたのち、やがて「イチロー」となる。