9月13日のニューヨークダウ平均株価は、FRB(連邦準備制度理事会)が大幅利上げを続けるとの警戒感から、コロナショック以来2年3か月ぶりの大幅な下落となった。原因は同日発表された8月のCPI(消費者物価指数)だ。7月に伸びが鈍化し、インフレは峠を越えたと見られていたが、8月の指数が市場予想を上回った。米国の物価が高止まりしているのはなぜか、また、日本経済への影響はどうなるのか、専門家に聞いた。

■賃金・家賃は下落せず、米CPI高止まり

ダウ平均株価は13日、一時1362ドル値下がりとなり、終値は前日比で1276ドル安い3万1104ドルで取引を終えた。これは2020年6月のコロナショック以来、2年3か月ぶりの大幅下落だ。

きっかけは同日発表された8月の消費者物価指数(CPI)だ。アメリカでは40年ぶりという歴史的な物価の高止まりが続いていたが、7月のCPIはついに伸びが鈍化。インフレは峠を越えたという見方が広まり、8月についても市場予想は8.1%だった。ところが結果はそれを上回る8.3%で、市場予想を裏切る結果となった。


金融市場ではインフレ抑制のためFRBの金融引き締めが続くという観測が一気に強まり、リスク資産である株が売られ、ダウ平均は記録的な下落となった。市場の予想を裏切る結果となったアメリカの8月のCPI。物価が高止まりしている理由について専門家は次のように見ている。

岡三アセットマネジメント シニアストラテジスト 前野達志氏:
今回のCPIに関しては、賃金や家賃が高止まっています。しばらくは家賃が下がりにくく、高止まりする。粘着力があると考えた方がいいような気がします。

実際にCPIの内訳を見ると、ガソリンは前月比10.6%下落する一方、住居費は0.7%、医療サービスは0.8%上昇している。家賃など住居費や医療サービスは一度値上がりすると下がりづらく、物価高止まりの原因になっている。

――今後のFRBの利上げ幅についてはどう見ているか。

岡三アセットマネジメント 前野達志氏:
個人的には、0.75%の利上げを9月にやり、11、12月と若干小さな幅の利上げを行うと。そして、来年に入ると利上げをストップして様子を見るという状況になるのかなと思っています。

■進む円安に日本政府ようやく危機感。為替介入の有無は?

市場予想を上回るアメリカの物価の高止まりは、日本にも影響を及ぼした。アメリカの8月のCPI発表後、14日の円相場は2円以上円安が進み、一時1ドル144円96銭をつけた。これまで「注視する」と繰り返していた鈴木俊一財務大臣は、「あらゆる手段を排除しない」と表現を強めた。また、日銀は14日、銀行のディーラーなどにドル円相場の水準を聞き取る「レートチェック」を実施。レートチェックは為替介入の準備とされることから、市場では為替介入は間近かという警戒感から円を買い戻す動きが広がり、一時2円近く円高方向に動くなど緊張感が高まっている。為替介入について専門家の見方は?

――144円90銭近辺でレートチェックがあったが、為替介入はあるのか。


三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏:
今のところ微妙だと思っています。本当に腹をくくって介入をやる気なら、レートチェックなんかやらない方がいいわけです。予告も何もなしにズバッと介入した方が、みんなびっくりして介入の効果は非常に高くなりますから。いまのところ非常にきつい口先介入を入れているということは、まだ介入をやるかどうか迷っているような段階で、145円あたりが防衛線として意識されているのかなという感じがします。

――145円は防衛線としては合理的なラインか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 植野大作氏:

24年前のドル高円安のトップレベルが147円台ですから、そこを抜けると止まらなくなるリスクがあるので、手前の145円あたりを念頭に置いているという可能性はゼロではないと思います。

――仮に介入があった場合、効果はあるのか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 植野大作氏:

私は薄いと思います。いま日銀が大規模緩和を一生懸命続けている状態で、いくら財務省が外為市場で円を売っても金融政策との整合性が全く取れない。「ちぐはぐ介入」になってしまうので、なかなか効果が薄い。それからもう一つ、いまのように円安を止める介入というのは自国通貨を買うために外貨準備を取り崩さなければいけないので、元手になる外貨準備が払底してしまうとできなくなる。ですから、日本政府の単独介入だと効きが甘いのではないかと思います。

――今後の中期的な為替相場の動向はどう見ればいいか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 植野大作氏:
日本とアメリカの金融政策のレベルがあまりにも違いすぎますし、日本の貿易収支の赤字体質が定着していることを考えると、やはり介入の神通力だけだと145円で止めるのは難しいと思います。そこを抜けると24年前の147円、私はいまのところその手前で止まるのではないかと思っていますが、抜けると150円を目指すような雰囲気になっても不思議ではないと思います。