ドラマ制作の現場には、カメラを回す撮影監督や光を操る照明スタッフと並んで、映像の「質感」や「色」を整える要として活躍するVE(ビデオエンジニア)がいる。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』では、1950年代からの端島と現代の東京を舞台に、時代や物語のトーンを映像で表現するため、VEの手腕が存分に発揮されている。今回は、本作のVEを担当する岡村亮氏にスポットを当て、その役割や制作の裏側を詳しく掘り下げる。
映像の色とトーンで物語を語る――VEが映像の世界観に込める役割

VE(ビデオエンジニア)の仕事は、撮影現場で使用する音声や映像機器のシステムに始まり、撮影データが確実に保存されるよう管理する責任を担う。ドラマの撮影において「もし撮影したデータが失われたら大問題」と岡村氏が語るように、VEの責任の重大さは計り知れない。しかし、ドラマにおいて、VEの役割は機器の管理に留まらず、ルック(色味やトーン)を決める、映像制作のクリエイティブな面にも深く関与している。
本作では物語が過去と現代を行き来する構成となっており、それぞれの時代の雰囲気を視覚的に表現する色調は重要な要素。塚原あゆ子監督から「過去と現代で異なる色味を作りたい」というリクエストを受けたという岡村氏は、過去を描く端島のシーンにはイエローやグリーンを基調にした色調を選び、人々の活気や温かさを感じさせる雰囲気を演出する。一方、現代・東京のシーンでは、「人と人とでつながる端島とは異なり、現代はモノでつながる無機質なイメージがある」という考えから、ブルーを基調に色を抑え、孤独や冷たさが際立つトーンを採用している。

時代モノが描かれる際、セピア調や彩度を抑えた映像になることが多いが、本作の過去パートは鮮やかな色使いが特徴的だ。その理由は、物語の舞台である端島が、コンクリートで造られた緑なき半人工の島であることに起因する。「グレーの建物を背景にした映像の色を落としてしまうと、見づらくなってしまうのでは」という塚原監督の言葉を受け、思い切って鮮やかな色調を採用。この試みが視聴者にとって見やすい映像を生み出している。
全国各地のロケ映像を統一、視聴者にベストな映像を届けるために

異なる時代のトーンを表現するために、VEは“LUT(ラット)”と呼ばれるカラープリセットを作成。クランクイン前に行うカメラテストの映像素材を参考に、作品に合った色を作り、本番でそのイメージを再現できるように撮影現場で調整を加えている。「今回の場合、照明スタッフと事前にイメージをすり合わせ、照明のキーライトの色や、セットとロケ映像をどのようにマッチさせるかも話し合いました」と、岡村氏。というのも、本作はスタジオセットに加え、全国各地でロケ撮影が行われているため、場所、天候や光の条件などで撮影素材に差が出てしまう。このように異なる場所で撮った映像の統一感を保つこともVEの大きな使命なのだ。そのため岡村氏は日々撮影データを持ち歩いており、各撮影現場で過去の映像を確認しながら全体のトーンがぶれないように調整。さらに、「監督から『あのシーンってどんな感じだった?』と聞かれることもあるので、すぐに映像を提示できるよう準備しています」と語り、撮影の重要な判断を支えるサポート役も果たしている。

VEの手腕は、炭鉱のような暗い環境でのシーンでも発揮される。「暗闇に長くいると、目が慣れてしまってモニター映像が実際よりも明るく見えてしまいます。監督はイメージ通りの映像を撮るために、視覚情報を頼りに明るさを落としたくなるもの。そこで僕たちVEが波形モニターで実際の明るさをチェックすることで、適切な設定を提案。撮影環境によって、明るさの度合いが変わらないように注意しています」と。視聴者が画面で見る映像が最高の状態になるよう、細部まで注意が払われているのだ。