連続ドラマと映画の違いが生むVEの存在意義

撮影現場で重要な役割を担うVEだが、同じ映像制作でも、映画制作ではVEのような役職がない場合も多い。それは映画では長い制作期間が設けられているため。撮影現場ではカメラマンと照明が一緒にルックを作り、後からじっくりと色調整を行えるのだ。対して、毎週放送がある連続ドラマは撮影から編集、放送までが短期間で進む。「撮影後の色調整に割ける時間が限られているので、撮影段階で映像のルックをある程度仕上げるVEが必要なんです」と、制作の裏事情に言及。短い制作時間で、クオリティを落とすことなく効率重視で制作する連続ドラマにとって、VEは欠かせない存在なのだ。

本作では、連続ドラマの新たな挑戦としてVFXやLEDパネル背景などの最新技術がふんだんに使われており、岡村氏もそこへの対応が求められた。ときには映像のほとんどがVFXで、リアルな風景が一部だけの場合もあるという本作での作業は、岡村氏が思わず「めちゃくちゃ大変で…(笑)」とこぼすほど。特に第1話での端島の屋上のシーンでは、前述のLEDパネルを使用して撮影しており、外の風景と違和感なくつながるように。さらに、外で撮影した映像のように見せるのが難しかったという。映像をマッチングさせるため、その場で光の方向や強さを照明スタッフと試行錯誤するほか、「より自然な映像になるように、空が明るすぎる場合には青の彩度を下げたり、手前のキャラクターが引き立つように背景全体の色味を抑える作業を行いました」と、撮影後の調整にも余念がない。

さらに驚くべきことに、ドラマ制作では撮影場所によって機種やメーカーが異なるカメラが使われているという。カメラは、メーカーによってそれぞれの性能や特色が映像に出るもの。岡村氏はそれぞれのカメラの持つ特性を理解したうえでトーンを統一する必要があり、モニターで見る色味に差が出ないように、そのカメラに合った設定を事前に調整して撮影に臨んでいるという。私たちが普段何気なく見ている映像には、彼らの見えない努力の積み重ねが隠れているのだ。

ドラマへの愛が導いたVEの道…岡村氏のキャリアと挑戦の軌跡

シネマティックな映像で描かれている本作だが、岡村氏自身もそのクオリティを強く意識をしている。「塚原監督は映画制作の経験も豊富で、たくさんのカメラマンとも仕事をしてきた方。これまで数々の映像を見てきているからこそ、それらに負けない映像を目指すぞ…という思いもあり、一種のプレッシャーを感じています」と心境を吐露。塚原監督と新井順子プロデューサーが手掛けた『MIU404』『着飾る恋には理由があって』などに加えて、映画『ラストマイル』も担当したという岡村氏は、さらなる映像美を追求するため妥協なく目の前の作品に向き合っている。

そんな岡村氏がVEを志した理由は“ドラマが好き”という純粋な思い。「映像を学び始めた当時、カメラマン志望の競争率がとても高くて(笑)。それに、自分はカメラマンや編集者には向いてないと思って、VEとしての道を選びました」とキャリアを振り返る。しかしその後、時代の変化とともにVEの仕事も進化し、編集室での調整作業にも携わるようになった。「当時は自分が編集室にこもって作業するなんて想像もつかなかったのですが、時代の変化によって求められることは変わる。それに対応していく力も必要だなと感じています」と仕事への姿勢を語ってくれた。

監督やスタッフとともに、過去と現代を巧みな色使いで表現するVE。その手腕は、進化する技術や制作環境の変化にも柔軟に対応しながら、ドラマの世界観を守り抜く。彼らの存在があるからこそ、視聴者は画面の向こう側に広がる世界を臨場感を持って体験できるのだ。