いまの時代に必要なのは“鈍感力”

──心が折れそうになったときはどう乗り越えていますか。

デビュー当時を思い返すと、地獄のように(笑)忙しかったんですね。当時はそれが当たり前で、対応できなければ失格、みたいな風潮がありました。それを乗り越えられたのは、1週間に一度ぐらい思い切り泣く日を作ったから。最初のころは母がすごく驚いていましたけど、夜、クタクタになって帰ってきてからワーッと泣いてスッキリする。それがデトックスでしたね。いまでいうと、鈍感であることでしょうか。私、スマホが好きでいろいろ活用していますが、SNSは一切やっていないんです。自分から発信することも、人が発信した言葉を見ることもない。無理に人の言葉を必死に追いかけて、自分の中に取り込まなくてもいいと思うんですよ。明美さんもそうなんじゃないかな。スナックでママをやっていると、酔っ払いの相手もしなくちゃいけないし、強さと鈍感力をもってこそ前に進めているんだと思います。

──劇中、明美ママは、プロボクサーを目指す娘に対し、応援したいけれど心配だという気持ちで揺らいでいます。そんな母親の心境をどう思いますか。

「やりたいことをやりなさい」と言ってあげたいけれど、ケガを負うことも少なくないスポーツだから、親なら不安になるのは当然。ドラマの後半で明美さんが自分の気持ちを娘に伝えるシーンがいくつか出てきますけど、最終的には何があろうと娘の人生、娘の選択だから、是非に関わらずに受け入れるしかないと思うようになっていくんです。でも、押し付けがましく受け入れるわけじゃないのが明美さんらしい。「よくわからないけどそういうことなんだよね」と、ふっと受け入れる。彼女にはそういう天性の対応力があるんじゃないかな。

自分の殻をぶち破り変わっていく娘の姿に注目したい

──斉藤さんご自身にもお子さんがいらっしゃいますが、どんな親子関係ですか。

長女(水嶋凜)は私と同じ仕事をしているので、私を母親としてだけで見られないぶん、葛藤があるんじゃないかと思うんです。だから私にも、余計なことは言うまいという気持ちがあって。比較的距離を置いて接しています。それがいまのところ功を奏してはいるみたいで、自分の仕事を「これ見て」と長女から言ってくるような関係ではいられていますね。19歳の次女は私にベッタリで育ってきたので、そろそろ親離れ・子離れしなきゃいけないな、
なんて思ってます。腕を組んでくっついてきたりしたら、「もうそういうのは卒業」って言ってみたり。長男とは、アプリで「へんな勧誘に引っかかっちゃだめだよ」「そんなにバカじゃないよ」なんて連絡を取り合う感じのスタンスです(笑)。

──母親目線でこのドラマに思うところはありますか。

いまはとても閉塞的な世の中で、自分を破れない人がいっぱいいると思うんです。だけど主人公は、ケガしようがなんだろうが練習を続けていきます。ボクシングを始めたキッカケは自分をフッた男性を殴ってやりたいという動機でしたけど、それが最終的には彼女自身を奮い立たせる原動力になっている。自分で自分を変える、その思いで進んでいく娘の姿は母親としても注目したいと思います。

主人公をはじめ、若い登場人物たちが悩みながらも人生を切り開く中、彼らを見守りながら自身も楽しく生きる母親。そんな役を務める斉藤さんは、さまざまな経験を重ねながら、時代に上手に反応しながら生きてきた。だからこそ、つねに第一線で活躍しているのだろう。その一方、自分なりの美学や信念があって、時代が変わってもブレることなく “斉藤由貴”でいられるのだとも感じる。そんな斉藤さんが演じるから、明美ママはその自由奔放さや懐の広さが視聴者にウケているのかもしれない。