“皇帝タイプ”が覇を競う世界に?

民主主義を劣化させる異なる意見の排除、ウソ、扇動、ルール無視…。どれもトランプ氏の過去の行動から思い浮かぶ。

多様性の反対にある差別。「移民がペットを食べている」というデマ、そのデマは訂正されるどころか、拡散していく。強弁による扇動。社会を構築する上で不可欠なルールや秩序の否定…。民主主義の旗手であるはずの米国で、そんなことがまかり通っている。

その米国を再び率いるトランプ氏も、中国の習近平主席も、ロシアのプーチン大統領も、いずれも民主主義、法の支配を軽んじる、または否定している点がよく似ている。米国、中国、ロシアは国連の5つの常任理事国のうちの3つ。つまり自由主義陣営の次のリーダーも、反米国・専制主義の大国のリーダーも、強権体質の指導者になるという点が類似している。そして、中露のその専制ぶりは、トランプ氏の前回の大統領在任中より、強固になっている。

トランプ氏は一貫して「MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大にしよう)」と叫び続けた。片や、習近平主席は「中華民族の偉大な復興」という目標を掲げる。プーチン大統領はソ連時代を理想した「強いロシアの復活」に進む。3人それぞれ、復活を目指す時代は違っていても、「国を牽引し、目標を果たし得るのは、自分しかいない」という強烈な自負だ。

そういう意味では、「力が全て」という皇帝タイプが、覇を競う世界になるのだろうか。ウクライナにパレスチナ。地球上のあちこちで危機が増し、その危機が交じり合う。そこに皇帝タイプのリーダーが、それぞれの思惑で関与する――。とてもきな臭い。

今こそ思い出したいオバマ元大統領の演説

大統領の就任式は来年1月20日。しかし、そこからトランプ政権が始まるのではなく、事実上、当選とともにスタートしている。長い、長い4年間が始まった。

トランプ氏の再登板が決まって、思い出した演説がある。それは、バラク・オバマ氏が大統領として最後に行った2017年1月のスピーチだ。

『民主主義には、団結という基本的な意識を必要とします。外形的な違いはありますが、「私たちは共にある」という考え方です。私たちは事実かどうかに関わらず、自分の意見に合う情報だけを受け入れるようになってしまっています。政治は、思想の戦いです。しかし、共通の事実に基づかず、相手の言い分にも一理あると認めることができなければ、議論はかみあうことがなく、妥協し合うこともできないでしょう。秩序は法や人権、宗教や言論の自由などに基づくものです。今、この秩序が脅威にさらされています。この危険は、異なる外見や言葉、信仰を持つ人々への恐怖、法の支配への侮辱、異なる考えへの不寛容です。』

過去を懐かしむだけではいけない。理念だけでは平和は維持されない。だけど、世界はさらに混沌とした時代へ突入するのだろうか。今、起きようとしていることは日本も無関係ではない。今こそ、このオバマスピーチの訴えをかみしめたい。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。