■「ちかさんがいなかったら、私はここにいない」
ちかさんは「下地は、キャンバスにしようと思って。三つ葉を書いて、四つ葉を1個だけにしてみんなに探してもらう。見つけた人が幸せになるみたいな」と、はにかみながら答えます。お客さんを幸せにしたいという、優しい思いが込められていました。

てる子さんをはじめ、この日の店のスタッフたちのドレスコードは「黒」。卒業や誕生日などその日の主人公がいる場合は、他のスタッフは黒服に徹するというのが、バーなどでは鉄則だといいます。

「きょうまで、おつかれさまでした…」

店の後輩たちが、メイク中のちかさんにお礼の品を渡しに来ました。

ちかさんにプレゼントを渡す仲間のスタッフ

いまこの店に所属しているスタッフのほとんどは、ちかさんより年下です。ちかさんが6年前に店に入ったときは、同世代の仲間がほとんどでしたが、新しい人生に進むために2~3年ほどで卒業しています。

メイクの下地に使うベビークリームや、チョコレートなど、ちかさんが喜びそうなものがプレゼントされます。店長のてる子さんからは、色とりどりのタオルが贈られました。

「家族で使えるバスタオルとか、赤ちゃんのおくるみにも使えるやつ」

「わーすごいレインボー!!もうどうしよう、ずっとお世話になってばかりで…」

感激した様子のちかさんに対し、てる子さんは「ほんとよね!たくさん世話したよね、私たち。この人が酔いつぶれているときとかさ~!」と後輩たちを巻き込んで、笑顔を誘いました。

魔ァ子さん

店の後輩の1人、魔ァ子(まぁこ)さんです。初めて客として店に来たとき、店番をしていたのが、てる子さんとちかさんだったといいます。

「Xを交換して家に帰ったら、ちかさんから『きょうありがとう、よかったらまた来てね』とメッセージをもらった。次も行こうかなと思って、気が付いたら働いていた。ちかさんがいなかったら私はここにいない」

ちかさんは照れながらも、「魔ァ子は次のスタッフのリーダーだから」と私に紹介。魔ァ子さんは、「やだ~!そんなこと、絶対思っていないのに!」と飛び切りの笑顔で返します。

ちかさんの独創的な格好は、東京で活躍するドラッグクイーンたちもちかさんに会いに来店するほど、注目されています。アニメのキャラクターや、ときには日用品や野菜などにも変身します。

左は「ぶどうの妖精」右のページの写真はある映画に登場する「札」

店のカウンターには、これまでのちかさんの「女装」写真をまとめた「顔面美術館」というタイトルの冊子も置かれています。常連のお客さんがつくってくれたものです。

後輩のみゆさん

後輩のみゆさんは、スタッフとして働く前からXでちかさんに注目していたといいます。「すごいメイクをする人だなと…。初めて出勤で一緒になったとき、予想外にちかさんがおとなしい方だったので、ギャップに驚いて」

「次は、みゆさんがこういうメイクをしてみるのはどうか」と私が聞くと、「ちかさんはもうレジェンドの枠なので、あのメイクの枠はもう永久欠番です!」と、笑いながら首を横に振りました。