愛知県から岐阜県にまたがる尾州地域で、毛織物業界が中心となったひつじサミットが開催された。世界三大毛織物産地の一つといわれる尾州で繊維産業の復活に向けた動きが始まっている。

世界が認める「尾州ウール」繊維産業復活かけた地域連携

今年で4回目を迎えた「ひつじサミット尾州」。音楽ライブや羊の丸焼きイベントなどが来場者を楽しませる。尾州は、愛知県一宮市と岐阜県羽島市を中心とした地域で、明治時代に毛織物業が盛んとなり、イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと並ぶ世界三大毛織物産地の一つ。

このひつじサミットの発起人が、羽島市にある三星毛糸の岩田真吾社長(43)。三菱商事、ボストンコンサルティンググループを経て28歳のときに明治時代創業で約140年続く家業を継ぎ、5代目社長となった。

三星毛糸 岩田真吾社長:
私が(家業を)継いだ時は繊維業というのは斜陽産業というか、継続するのも難しいと言われていた。

業績を伸ばすために、海外展開に挑戦し、自ら海外の展示会で生地を売り込んだ。2015年にイタリアの高級ブランドである「エルメネジルド・ゼニア」のメイドインジャパンコレクションに選ばれたことを皮切りに、「LVMHグループ」「Keringグループ」など、今では多くの海外トップブランドが三星毛糸の生地を採用している。

三星毛糸が業績を伸ばす一方で、尾州の産地全体では衰退が顕著に。

羽島市産業振興部 商工観光課 浅野洋充課長補佐:
昭和35年(1960年)くらいが一番羽島市の中で繊維関係の事業者数が多くて、約900社ぐらいあったと言われていて今ではもう30社あるかないか。今の時代の若いお子さんとかそこまで(世界的産地という)認識がないのではないか。

新型コロナなどの影響で倒産する企業が相次ぐと、岩田社長は産地として生き残るには、地域の連携が不可欠と感じひつじサミットの構想を同業の仲間に持ちかけた。

岩田社長が相談したという伴染工の伴昌宗専務は「一緒になって何かをやるとか、この産地を盛り上げていこうという関係性がなかったので、(ひつじサミットは)いい機会だと感じた。産地の存在意義すら問われるくらいの規模が縮小している。競争よりも協業。共に成長する方法をとらないといけないと思う。」と話す。

今までライバル同士だった尾州の毛織物業者が手を取り合い、復活に向け動き始めた。

尾州の毛織物業者が手を取り合って行ったのが、各工場の一般公開。ひつじサミット尾州の目玉として始め、現在では24の業者が参加している。これまではほとんどの工場で見学が行われていなかったが、素材から糸を紡ぐ工場や、紡いだ糸を染色する工場、染色された糸で生地を織る工場など毛織物ができる工程を職人のガイド付きで見られるようにした。

一宮市からの参加者は「あんなに細かく見せてくれるんだ」「機械の中、通っていいのみたいな」。大阪から参加した男性は「大きい機械で職人さんもかっこいいし、素敵な仕事だなと思った」と話す。

ひつじサミットは2021年の第1回から年々規模を拡大し、東京から尾州に向かう貸切新幹線イベントも始めた。来場者も最初の年の1万2000人から、2023年は2万4000人に倍増し、ひつじサミットがきっかけで、毛織物業界に就職する人も出てきている。

渡六毛織 有冨渚さん:
技術力がすごくあるなと実際見て感じたので、元々(繊維の)産地に興味を持つきっかけになったのは今治なので、ひつじサミットに参加してなかったら、愛媛に行っていたかもしれない。

参加企業からは、横の連携が広がったことで新たな可能性を感じる声が上がっている。

長谷虎紡績 長谷享治社長:
面白い機能素材とこの地域の伝統的なウールの毛織物。これが組み合ってくるとすごく新しいものができてくると思う。これから一番成長する産業は繊維産業。断言する。本当にそう思っている。