地震学の権威が痛烈な“ダメ出し”「科学的根拠と制度設計に問題あり」

石橋克彦・神戸大学名誉教授
「あえて批判的な考えを述べさせていただきます。まず、今回の臨時情報は科学的根拠が乏しく確度が低いと思います」

発表の冒頭、「臨時情報」をそうバッサリ切り捨てたのは、地震学の権威として知られる神戸大学名誉教授の石橋克彦氏だ。石橋氏は10月22日、「2024年8月8日に発表された南海トラフ地震臨時情報の問題点」と題した発表を行い、おもに科学的根拠と制度設計の2つの面から「臨時情報」を批判した。このうち科学的根拠が乏しいとする理由について、以下の4つの観点を挙げた。

科学的根拠に乏しい4つの理由

1)「臨時情報」が発表されるきっかけとなった、8月8日午後4時42分に発生した日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震は南海トラフ地震の想定震源域の中で最も南西の縁に当たる部分で起きたが、地震や地学のデータから総合的に考えて、そもそも想定震源域が南西方向に広すぎる可能性がある。

2)日向灘ではマグニチュード7級の地震が約30年間隔で繰り返し発生している。対照的に南海トラフのプレート境界の地震活動は普段は非常に静穏で、日向灘の地震と南海トラフ地震とでは地震の起きるパターンが異なるのではないか。少なくとも17世紀以降、日向灘を震源とする地震が南海トラフ地震に先行して発生した事実は確認されていない。

3)「臨時情報(巨大地震注意)」で巨大地震発生の可能性が平常時と比較して高まったとする根拠に、南海トラフ地震の特性を考慮せず、世界で発生した地震の統計データ(1,437分の6の発生確率)をそのまま機械的に当てはめているのは意味がない。

4)最初の地震が想定震源域内のどこで起きたかは大事なポイントだが、日向灘で8月8日に発生した地震が、想定震源域にどのような影響を与える可能性があるのかについての解釈や説明がされていない。

「臨時情報」の問題点を指摘する石橋氏のスライド