全国霊感商法対策弁護士連絡会による新田知事への申入書 全文

1.前略 私たち、全国霊感商法対策弁護士連絡会は、世界平和統一家庭連合(略称「家庭連合」、旧世界基督教統一神霊協会、以下単に「統一教会」といいます。)による霊感商法被害の救済と根絶のために、1987年5月、全国の弁護士約300名により結成された弁護士の連絡会であり、それ以来35年以上被害救済の活動を行って参りました。

2.昨今、国会議員や地方議員の方々が統一教会やそのフロント組織の集会・式典などに出席し祝辞を述べたり祝電を打つという行為が目立っています。これらの議員の方々の行為は、統一教会により、自分たちの活動が社会的に承認されており、問題のない団体であるという「お墨付き」として利用されてきました。

3.家庭連合は、統一教会と名乗っていた頃から、信者の人権を抑圧し、霊感商法による金銭的搾取と家庭の破壊等の深刻な被害をもたらしてきた反社会的な団体であり、2015年家庭連合に名前を変えてからもその体質は変わっていません。
 かつての霊感商法、合同結婚式に関する多くの批判的報道から時間が経過したことで統一教会の実態を知る国民が減っている中で、政治家によるお墨付きは、統一教会による反社会的な活動を容易にし、また、その反社会的活動の是正を困難にするものとして悪用されます。このような政治家の行為は、霊感商法の被害拡大をもたらすことになります。これは政治家の方々にとって、決して本意ではない筈です。

 そんなことから当連絡会はかねてより政治家の皆様が統一教会(家庭連合)と連携することがどのような社会的弊害をもたらすか考えて慎重な対応をされるようお願いしてきました。2019年9月27日には、全国会議員に向けた要望書を発出しているところです。

4.ところがこの度、富山県知事の新田八朗様におかれましては、2020年の富山県知事選挙の際、世界平和統一家庭連合から選挙活動の支援を受けた事実を認められました。
 しかも、宗教団体である家庭連合だけでなく、その傘下の団体である世界平和連合や平和大使協議会などの関係者とも面談し、上記知事選で応援を受けたことも認め、当時の候補者という立場にとってはありがたいことだったと述べられました。
 当連絡会の弁護士としては、県知事自らこのような選挙活動についての支援を受けた事実があったことを認め、それが「ありがたいことだった」と述べたことに強い衝撃を受けました。

 第1に、かかる県知事の行為は統一教会内部で自分たちの主張や活動が県政のトップに受容されたと周知され、組織がためになるとともに、強引な献金勧誘や正体をかくした信者勧誘・教化活動を強化し拡大することになってしまいます。

 第2に、あまりにも強引かつ執拗な献金勧誘や入教へのさそいこみに動揺している信者や、信者の行為に困り果て家族内対立をもたらしている家庭に深刻な動揺やとりかえしのつかない亀裂をもたらします。「私たちの活動は県知事だって認めて感謝されている」と確信を深めた信者たちは幹部から指示されて、これまで以上に強引な献金や信者勧誘の実績追及に励むようになり、心配する家族の意見をこれまで以上に無視することになるのです。

 富山県内で知事の行為が県民の人生やその家族に深刻な悪影響をもたらすことを、是非県民ひとりひとりの立場に立ってお考えいただくよう切にお願い申し上げます。

5.報道によりますと、新田知事は政府は統一教会が反社会的団体か否か判断を示していないから今後の関わり等について明確には答えられないと述べられているようです。

 しかしながら、統一協会が、一般市民に対し、印鑑、念珠(数珠)、石板、壺、多宝塔、釈迦塔、人参濃縮液などを先祖の因縁を解放するためなどと欺罔し、畏怖・困惑させて、不当に高い価格で売り付けたり、先祖解怨の名目で多額の貸付・献金を強要したりする、いわゆる霊感商法は、当連絡会が集計した被害者の相談だけでも、1987年から2021年12月までの35年間に合計3万4537件、被害合計は1237億円余にのぼっており、現在もなお同様の被害相談が継続して寄せられています。

 また統一協会は、「真(まこと)のメシヤ」であるとされる故文鮮明教祖(2012年9月3日死去)及び韓鶴子後継教祖の指示により、「万物復帰」という教義の実践として、日本人信者に対し、強引な資金集めとそれによる献金を、毎月目標額を示して、その達成のための活動を継続させてきました。こうしたいわゆる霊感商法については強い社会的批判があり、再三にわたって献金や物品販売活動、更にはその信者勧誘活動についてまで、裁判所において、その違法性及び統一協会の法的責任が認められてきました。にもかかわらず、統一協会は、今でも霊感商法の手口による物品販売活動や強引な献金強要を止めようとしません。全ての日本人信者が再臨のメシヤとあおぐ故文鮮明やその後継者と目されているその妻韓鶴子が、日本の組織に「いつまでにいくらを献金しろ」という過大な指示を出し続けてきたため、違法な手口による資金集めの活動を止めることができないのです。

 念のため統一協会の法的責任が認められた民事訴訟の判決が多数ありますので、その一覧を同封致します。必要であれば、これらの判決文をお送りしますのでご連絡下さい。これらをご覧になれば判るように、統一協会の伝道や資金獲得活動で用いられる手口が違法であることは、すでに確立された判例となっています。また、こうした統一協会信者の行う違法な行為について、長期間にわたって、各地で刑事上の捜査、摘発がなされ、有罪判決が下されています。2007年から2010年の間、特に霊感商法の手口について、特定商取引法違反や薬事法違反などで信者が相次いで摘発されています。その一覧も同封致します。

 こうした統一協会の手口はマスコミの報道、裁判所の判決等により広く知られるようになり、統一協会にとって従来の手口の霊感商法による資金集めは困難になってきました。そこで統一協会は、その正体を隠して資産を有する高齢者、未亡人、主婦等に近づきビデオセンターに通わせて、時間をかけて説得して献金を強要する外、その所有する不動産を担保に借金をさせて統一協会組織に提供させたり、銀行、サラ金から借金をさせたりするなどしており、その種の被害相談例が後を絶ちません。当連絡会に所属している弁護士が関与して現在係属している統一協会に対する深刻な損害賠償請求訴訟も現在5件が継続中です。

 このような統一協会の実態は、犯罪対策閣僚会議内の暴力団資金源等総合対策ワーキングチームが2007年6月19日に発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で指摘された「法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件」をも充足していると言わざるを得ません。

 この点、統一協会の勧誘目的等については、裁判例において、「いずれにせよ、被告協会の協会員が、協会員となった原告らに求め、あるいは求めようとしていたものは、上記のような勧誘、献金及び経済活動なのであって、これを外形的客観的に観察して直截に表現すれば、原告らの財産の収奪と無償の労役の享受及び原告らと同種の被害者となるべき協会員の再生産という不当な目的にあったということになる」(札幌地裁平成13年6月29日判決、その後、札幌高裁平成15年3月14日判決を経て、最高裁平成15年10月10日決定で確定)、「被告の新規信者獲得のための伝道活動は、純粋に宗教上の目的に出たものであるかどうか疑わしく、献身後、過酷な伝道活動や物品販売活動に従事できる者を獲得することにあったものと推認することができる…原告らに対する勧誘・教化行為は、原告らに献身及び無償で物品販売活動等を行わせること及びそのような行為をする被告の信者を再生産することによって、経済的利益を上げることもその目的であったものと推認するのが相当である」(東京地裁平成14年8月21日判決、東京高裁平成15年8月28日判決を経て最高裁平成16年2月26日決定で確定)などと認定されています。

 すなわち、統一協会においては、法的な責任を超えた不当な要求を組織的に繰り返し行っている反社会的勢力と言わざるを得ない実態が存するのです。また、本年8月末岸田首相は統一教会信者による霊感商法が多くの被害者を出していることから、与党自民党の議員の方々に対して関係を断つべき団体だと明言され、各議員に検討を指示されました。
 
 更に、法務省と消費者庁の各担当大臣は深刻な被害の実情を速やかに調査した上で対策を検討するよう各関係者に指示されました。政府には法律上反社会的団体を認定する制度はないものの、上記のような方針をとるべき団体であることを認定し、対策をとることを決定したことを意味します。


6.そこで、新田知事に次の3点について是非ご回答いただきますよう申し入れます。

 第1に、新田知事は統一教会やその傘下の関連団体である世界平和連合、平和大使協議会とは、いつどのような経過で接触し、いつどのような支援を受けてこられたのか具体的にご説明下さい。

 第2に、新田知事は選挙で支援を受けて当選して以降、統一教会やその関連団体の研修を受けたり、政策協議をしたり、されたかと思います。いつどのようなことがあったのか、ご説明下さい。

 第3に、新田知事は今後は統一教会やその関連団体とは一切関係を持たないでいただきたいと存じます。この点についてどのようにお考えか是非明らかにされるようお願い致します。