「なぜって、その人も同じようにこの国に来たんだから…。その人も移民なのだ」
モネッセンに続いて松原キャスターが訪れたのは、激戦のスイングステートを象徴するもう一つの町ヘーズルトン。モネッセンのカギを握るのが白人労働者であるのに対し、ヘーズルトンのカギを握るのはヒスパニックだ。

ペンシルべニア州の東部ヘーズルトン。松原が訪ねた時は年に一度の祭りの最中。広場に集まった大勢の人、人、人…。中でも目立つのはヒスパニックだ。今やペンシルべニアはヒスパニック系が60%を超える。大統領選でも当然ヒスパニック系の動向が結果を左右する。集まった人たちに率直に「トランプorハリス」と投げかけた。

「トランプよ」(女性)「トランプね」(女性)
「ドナルド・トランプだ」(高齢男性)
20人に聞いたがハリスと言った人は3人。殆どが移民排除を謳ってきたトランプ支持という意外な結果だった。

町を歩くとスペイン語の看板や広告が目に付く。ヒスパニックの多さを物語っていた。町を案内してくれたアロヨさんは35年前にペルーから移民としてやってきた。

スペイン語タウン誌編集者 アミルカ・アロヨ氏(75歳)
「より多くのヒスパニック系がトランプを支持している。それは事実だ」
今年になって民主党員から共和党員に変更する人が増加した。
30年前にドミニカ共和国から移民として渡ってきた女性もトランプ支持の一人だ。

アンジー・チャップマンさん
「ガソリン価格。失業率も(今の政権よりトランプ政権の)あの頃はよかったと思います。政府も上手くやっていたしトランプが国を率いていました」
トランプ氏が民主主義を壊すという意見があることを彼女にぶつけると、こんな答えが返ってきた。

アンジー・チャップマンさん
「(民主主義を壊すのは)社会主義者です。民主党です。トランプはイイですがカマラはダメ。彼女は社会主義者…。だから民主主義を破壊するわ。ベネズエラだってキューバだってそうなったでしょ」
「カマラは社会主義者」どこかで聞いたフレーズだ。さらに多くの人が現在のインフレを引き合いにトランプ時代の方が経済が良かったと話した。
しかし、意外だったのは移民問題だ。犯罪率などから不法移民の取り締まりは徹底すべきだという意見は分かるが、合法的に移民として入国してくることにも反対するヒスパニックも増えてきているというのだ。これには同じヒスパニックの人間としてアロヨ氏は憤る。

スペイン語タウン誌編集者 アミルカ・アロヨ氏
「どうして彼らは同じヒスパニック系の人々(の移民)に反対するのか、これには同意できない。ヒスパニックがそういう話をすると腹が立つ。なぜって、その人も同じようにこの国に来たんだから…。その人も移民なのだ」
ヒスパニックは伝統的に移民に寛容な民主党を支持してきた。だが新たな移民が増えれば職を奪われるかもしれない。さらに多様性を強調する民主党に対し宗教的に受け入れられないヒスパニックも共和党に乗り換えるという。
スペイン語タウン誌編集者 アミルカ・アロヨ氏
「性的指向に関する話題になると非常に保守的になる。彼らはバイセクシャルやレズビアンを受け入れない。それが共和党、特にMAGA共和党を支持する理由の一つになっている。MAGA共和党は極端な右派であり、非常に保守的だ」

慶応義塾大学 渡辺 靖 教授
「日本にいると民主党はマイノリティ、共和党は白人と考えがちだが、マイノリティでも生活が苦しければ現職に対し厳しい。今回もインフレ。もう一つはわりと宗教的に保守的な人たちからすれば、むしろ民主党は行き過ぎているリベラルすぎるということで共和党に共感を持つという風になっている。それからヒスパニック、黒人もそうなんですがトランプ氏の非常にマッチョな振る舞いと、一方では大金持ちというああいう姿にあこがれるという調査結果もあって、必ずしもマイノリティ=民主党ということではなくなっている」

東洋大学 横江公実 教授
「この地域のヒスパニック系は最初からここに移民してきたのではなく、ニューヨークにいた。911でニューヨークの経済がダメになって廃れていて家賃も安いこの町に移り住んできて一気に増えた。それで60%にもなった。だから現実的にどう生きるかが一番大切だった…」
移民としてアメリカに移り住んだ人々が、これ以上自分たちと同じ移民が増えることを望まず、排除するトランプ氏を支持するという現実。自分が地獄から抜け出そうと、天から降りて来た糸にすがりついた主人公が、重さで糸が切れるのを恐れ後続に「来るな」と叫んだ途端、糸が切れる…芥川龍之介の蜘蛛の糸を思い出した。
(BS-TBS『報道1930』9月5日放送より)

















