■過去40年間未経験のインフレ

ーーついこの前まで我々はディスインフレあるいはデフレと戦ってきて、いま突然インフレの世界になった。この落差をどう考えればいいのか。
入山章栄氏:
これは重要なポイントで、先日ある大手の日本の証券会社の社長と話した時に、「我々の悩みが分かりますか」とおっしゃいました。それは「過去40年間、我々はインフレを経験していない、そして金利が上がるという世界を経験してない」と。これからそういう世界になっていき、それを40年間経験していないからどうしたらいいかわかっている人間がほとんどいないというのです。確かにアメリカを中心にインフレや金利の上昇を経験したのは80年代です。実は40年間我々はそれを経験しておらず、いま急激にそういった状況になっている。だから率直にいうと、どんなプレーヤーも本当の意味でどういう手を打ったらいいかという正解が分からないのです。
ここから私の憶測も入るのですが、パウエル議長はちょうど80年代に30歳代ぐらいで財務省に入る前で、ボルカーさんがインフレファイターで戦ったのを眼前で見ているわけです。アメリカはあのときものすごいインフレを経験して苦しんで、それには徹底的に景気よりもインフレ対策を優先するのだというのを見ているから、いま誰も打つ手が見えない中ではインフレファイターを見てきた自分がそれをやるのだという心理は間違いなく働いているのではないかと思います。
ーーインフレになると怖さが先に立って、逆にインフレ期待が助長されてしまうようなことが起きかねない。
入山章栄氏:
インフレ期待つまり予想ですね。米国の消費者マインドを表すミシガン指数というものがあるのですが、それを見ると5年先ぐらいのインフレ期待は7月ぐらいからかなり低下してきています。ただ1年先ぐらいまでのインフレ予想が4.8%ぐらいで高止まりしている。おそらくパウエル議長はこの辺がまだ気になっているので、ここが下がっていくまではまさに戦うということかと思います。
(BS-TBS『Bizスクエア』8月27日放送より)