小池百合子都知事の大問題

小池百合子 東京都知事

いろいろな意見があれば、私たち報道機関はそれぞれをきちんと報じる「中立報道」が大事だと思っています。しかし、(1)事実と、(2)歴史修正主義によるデマを、同等・中立に報道してしまうことは職業倫理に反する、と私は思っています。小池さんについて、『リリアンの揺りかご』ではこのように表現しています。

(番組ナレーション)「虐殺はなかった」と否定する人は以前、ほとんど存在しませんでした。多くの日本人目撃者がまだ生きていたからです。朝鮮人犠牲者の追悼式典には歴代の東京都知事がメッセージを寄せてきました。ところが、「そよ風」の集会が始まった2017年から、東京都の小池百合子知事は追悼メッセージを送るのを止めました。

小池百合子都知事:私は「すべての方々への哀悼の意を述べる」という気持ちには変わりがなく、特別の形での追悼文は控えた。

記者:虐殺の事実というのは、都知事としてどのように認識されているのですか。

小池百合子都知事:これについては、いろんな史実として書かれているものがございます。どれがどういうのかは、まさしく歴史家がひも解くものではないだろうかと思っています。(2017年9月1日、都知事定例会見)

(神戸)小池都知事は、「虐殺があった」確かな事実と、「なかった」というデマを並べて、「いろいろな史実がある」と言うのです。これが、歴史修正主義の恐ろしさです。歴史修正主義による「うそ」は、確たる「事実」を「いろいろな意見の一つ」にしてしまうのです。(番組ナレーションここまで)

小池都知事の態度は非常に問題がある、と私は思っています。追悼メッセージを出さなくなったことは、結果的に政治的なメッセージと受け取られても仕方がないのです。

「虐殺してませんて!」叫ぶ女性

虐殺は233人だと主張する「そよ風」の人々=2023年9月1日、神戸撮影

軌を一にして、「そよ風」が虐殺を指定する集会を開いています。1年前、その集会を取材しました。非常につらいですが、実際の肉声を聴いてみてください。

そよ風の女性:ばかやろう、この朝鮮人が!

記者:関東大震災では何があったと?

そよ風の男性:こういう暴動が起きたんだよね。

神戸:「6000人が多すぎる」という意見があるのは分かるんですけど、230人は少なすぎませんか?

女性:あの災害だったら、どんだけでも亡くなっているでしょ。日本人だって何万人も死んでいるんだから。

神戸:虐殺された人が…

女性:虐殺してませんて!

男性:俺が調べたのでは、ないけどね。

女性:「そんな事実ない」と聞いていますよ、日本人側としてはね。

男性:200何人が確認されたんでしょ。

女性:どういう意味?なんで虐殺しなきゃいけないんですか?

神戸:「虐殺があった」というのが歴史的な事実とはお考えになっていないんですか?

女性:そんな歴史あるんですか?

男性:虐殺はいつでもあるよ。今だってあるじゃん。今でも北朝鮮で虐殺起きてるじゃん!その虐殺は問題にしないのか、お前らは?

(君が代を歌う「そよ風」)♪苔の生すまで

参加者:また来年もやるぞ!

これが1年前の9月1日、震災100年の慰霊祭当日の様子です。とても慰霊するような状態ではなく、取材して本当につらかったです。

もし、「朝鮮人虐殺はなかった」と言う人が近くにいたら、「その人の歴史観は信用できない」と思ってもらってかまいません。歴史的な事実と全く正反対のことを信じ込んでしまっているのです。

これが歴史修正主義の一番恐ろしいところで、私たちは本気で考えなければいけない問題です。

まもなく9月1日が来ます。「そよ風」はホームページでまた”独自の慰霊祭”を開くのだと表明しています。どんなことになるか、本当に心配しています。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材に、ラジオ『SCRATCH差別と平成』(2019年)、テレビ『イントレランスの時代』(2020年)・『リリアンの揺りかご』(2024年)を制作した。