「京セラ」の創業者・稲盛和夫名誉会長が若手の企業経営者に経営哲学を伝える「盛和塾」。世界各国の経営者から支持されているのですが、高齢となった稲盛会長の体力的な問題から今年(2019年)12月で解散することが決まっています。経営手法だけではなく「人としてどう生きるか」という根源的な問いと向き合う中で生まれた哲学に、再び注目が集まっています。
(当該の記事は2019年7月26日に放送されものを再掲載しています)

「人として何が正しいのか」 経営哲学“京セラフィロソフィ”

国内と海外あわせて約1万5000人もの塾生を擁する盛和塾。国内だけでも56の支部があります。多くの企業家たちの心の支えとなってきた盛和塾ですが、87歳となった稲盛和夫名誉会長の体力的な問題から今年12月に解散することになりました。

『わたしの代わりに誰かが“フィロソフィ(哲学)”を解説しても、それは稲盛哲学ではありません』(京セラ 稲盛和夫名誉会長)

稲盛名誉会長は今から60年前、京セラの前身である「京都セラミック」を創業。たった7人の仲間で立ち上げた町工場を7万人もの従業員を擁する巨大企業に育て上げました。しかし、最初から順風満帆の歩みを続けていたわけではありません。国内では全く相手にされなかったため、稲盛名誉会長は電子部品の試作品を作ってはボストンバッグ一つでアメリカへ渡り、飛び込み営業を繰り返していたといいます。

通信事業が電電公社の独占状態だった1984年には、通信料金の高止まりを打破しようと第二電電(=現在のKDDI)を立ち上げましたが、その行動には常に一つの哲学がありました。

「心を高め新しい事業を創出し、世の中に常に新しい価値を提供し続けることこそ、企業が社会に必要とされる存在であり続けられると思う。」(稲盛和夫名誉会長)

企業家である前に「人として何が正しいのか」という問いに正面から向き合い、様々な困難を乗り越える中で生み出された「京セラフィロソフィ」と呼ばれる経営哲学です。その冒頭にも「心の大切さ」が記されています。

稲盛さんは経営破綻した日本航空の再建を無報酬で引き受けた際にも、この哲学を貫きました。盛和塾は地元の若手経営者が稲盛さんから直接教えを乞うために集ったのが始まりで、かつてはソフトバンクの孫正義会長も薫陶を受けました。今では世界中から支持を集めていて、意外なことに中国でも絶大な人気だと言います。

「(中国の人は)利益追求という点ではきつい人間性を持っておられますけど、それ(利益追求)だけではだめですよと、“利他の心”を中国でお話しすると、ただ単に自分たちだけがお金儲けするだけではだめだ、ということをよく理解されて賛同してくれる。」(稲盛和夫名誉2016年当時の取材)