開票速報以降にクローズアップされた“石丸現象” データで見ると?
開票速報で2位が蓮舫氏ではなく、石丸伸二氏だということが明らかになって、テレビはそのことをどのように伝えたのだろうか。
実感としては、2位の得票を得た石丸伸二氏についての放送の扱いが、「開票速報」から急増したという印象がある人が少なからずいるはずだ。筆者もそうした印象を持つ一人である。
確かに個別の番組で見ると、選挙が終わってから2位に入った石丸伸二氏に注目するテレビ番組がにわかに増えている。いわゆる“石丸現象”である。
YouTubeでの配信を最大限に活用して切りぬき動画などSNSを駆使した選挙戦術。10代、20代を中心に圧倒的な人気を誇る。
テレビの識者や記者などからの質問に対して「なんという愚問」などと挑戦的なもの言いやメディア関係者との間で「それ、さきほど言いましたけど、もう一度言えということでしょうか?」などと繰り広げられる“かみ合わない会話”(「石丸構文」と呼ばれる)が話題になって、有権者の投票行動に影響を与えない都知事選の後になってテレビなどで特集されて大きく扱われている。
7月14日(日)のTBS「サンデーモーニング」では世論調査を手がけるJX通信の米重克洋代表取締役の話として、石丸氏の出現で「ネット選挙の位置づけが大きく変化した」と語る。
「リアルな地盤とは別に『ネット地盤』というものが出てきて、(従来は)ニッチな層を囲い込む、拾い集めるような使い方でネット選挙は行われていた。それが今回はマス(大衆)に対して一気に広がった。そういうネット選挙の使われ方をしたのは今回が初めてだと思います」とまで言い切っている。
2013年に解禁されたネット選挙は「選挙地盤」を意識した電話がけや支援者集会など従来の選挙戦術を補うかたちで使われてきた。ところが今回、石丸陣営は動画の拡散をメイン戦術に据えたことでネット空間に選挙地盤を構築したというのが米重氏の見立てだと番組は解説していた。
一度動画を見ると、次々と似たような動画が表示されるYouTubeの仕組みに「ネット地盤」を固める効果があるのだという。JX通信社の調査では、投票先を決める時にYouTubeを参考にしたと答えた有権者は石丸氏の支持者では45%を超え、小池氏や蓮舫氏の11%台、9%台を大きく上回っていた。
選挙報道に関する情報収集がテレビや新聞からYouTubeなどのネットメディアに移行している。こうした有権者の情報収集のメディアの変化が石丸現象の背景にあるという解説である。
開票速報の後では、石丸氏のSNSを駆使した選挙戦術では「切り抜き動画」を拡散させる手法に注目した報道も相次いだ。7月13日(土)のNHK「サタデーウォッチ9」もその典型である。10分あまり特集した。
開票速報以降、石丸氏は7月7日(日)のフジテレビ「Mr.サンデー」の開票速報特番に生出演して、1時間以上も登場している。
7月11日(木)テレビ朝日「グッド!モーニング」では「もっと知りたいNEWS」として安芸高田市・石丸前市長を直撃インタビューに15分半あまり。
テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」では生出演して46分半あまり。7月12日(金)フジテレビの「オールナイトフジコ」には22分弱。
7月14日(日)のTBS「サンデー・ジャポン」では石丸氏が生出演し34分15秒間登場している。同じ日のフジテレビでは「日曜報道THE PRIME」に石丸氏本人が生出演して50分間、石丸氏の選挙戦術などを取りあげたほか、「ワイドナショー」では本人は生出演していないものの17分あまりも石丸氏の話題について放送している。
開票速報とその次の週末(土日)までの間で各候補別の放送時間を累計してみたのが【図3】のグラフだ。
「開票速報」や「開票日以降」の放送でも、2位に入った石丸氏と3位に沈んだ蓮舫氏との間で大きな逆転現象(つまり、石丸氏の話題が蓮舫氏の話題を大きく上回るような展開)があるのでは?と予想したが、実際にデータで見る限りはやや意外な結果になった。

開票速報の累計でも、開票翌日以降の週末までの間の放送時間の累計も、当選した小池百合子氏が2位以下を引き離しているのは報道の常として当然という扱いだが、2位になる得票を獲得した石丸伸二氏、3位の蓮舫氏の間には驚くほど扱いの差はない。石丸氏の予想外の健闘で、石丸氏を集中的に扱ったテレビ番組がすごく目立ったにもかかわらずである。
石丸氏の健闘で蓮舫氏が惨敗した印象が強かったが、数字で見る限り、蓮舫氏は開票速報でも、その翌日以降の1週間あまりでもそれなりに放送時間を割かれて報道されていたことがわかる。
【図2】と比べると、開票速報までは、扱いは現職の小池氏とそれに対抗して追い上げる蓮舫氏という構図で扱っていたことがわかる。それが【図3】では2位に入った石丸氏の方が蓮舫氏を若干上回るという傾向が見てとれるものの、さほど大きな差は開いていない。これは実際の票差を反映した程度の差だとも言える。
こうやってみると、テレビ報道は今回、石丸陣営がSNSを重視して若者層を中心にいくら支持を伸ばしていても、テレビ番組トータルではそこにあまり注目しているわけではないということだ。
もちろん石丸現象に注目した番組がいくつかあって、SNS時代の新たな選挙戦として特集したものの、それは先に挙げたようないくつかの番組群に限られていた。
よくも悪くもテレビは全体としての現実を反映するメディアで、まだまだ時代の最先端を先取りしたり、今後の影響まで先読みするところまでには至らず、結論的にはネット時代にあっては保守的なメディアといえるのだろう。「ネットでの地殻変動」を的確に捉えきれないメディアとしての限界もさらけ出したようにも感じる。
石丸氏は新聞やテレビなどの主要メディアが選んだ主要な4人の候補者の中には入っていた。このため、テレビ報道を見ていて彼について顔もまったく知らないという人はいないだろう。