先ごろ行なわれた都知事選の事前報道で、テレビ各局は石丸候補の躍進をまったく予測できず、安野候補に至ってはほとんど取り上げなかった。なぜこうなってしまったのか。ネットでの地殻変動を捉えきれない旧来型の選挙報道の限界があったのではないか。ジャーナリストで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏による論考。

はじめに

現職の小池百合子知事が三選を果たした東京都知事選の投開票日からもう1か月あまりになる。現職の小池氏と立憲民主党や共産党などが支援した前参議院議員の蓮舫氏との事実上の一騎打ちと見られていた今回の知事選。

テレビや新聞などの主要メディアは、小池百合子氏、蓮舫氏、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏の4人を主要な候補と想定して、事前の記者会見などもセットした。

7月7日の七夕決戦。午後8時からの各社の開票速報では早々と小池百合子氏の当選が決まった。結局291万票あまりを獲得して圧勝した小池氏に次ぐ2位になったのは165万票あまりを集めた石丸伸二氏だった。女性同士の闘いになると見られていた蓮舫氏は128万票で3位に沈んだ。

地上波テレビの放送データを収集している調査会社の株式会社エム・データの協力で同社の「TVメタデータ」を提供していただき、都知事選のテレビ放送について分析した。 

同社がまとめたTVメタデータは、首都圏・中京圏・関西圏の地上波テレビで放送されたテレビ番組をテキスト・データベース化して構築した同社の商品だ。

いつ、どの局のどんな番組で、誰が、どんな話題が、どの企業のどんな商品がどのくらいの時間、どのように放送されたのかなどを独自のデータ収集システムを使って生成している。

今回は首都圏の地上波テレビを対象にした。たとえば番組のジャンル別にいつ頃から知事選の話題を放送しているのかなどの内容や放送時間などを把握することができる。

筆者は毎回、国政選挙など大きな選挙の折には同社の「TVメタデータ」や独自に集計した放送記録を元に分析してきたが、これまでの経験則としては一般論として次のような傾向があるといえる。

まず政権交代など、世論が政治を大きく変えるような「盛り上がり」を見せる時には、公示や告示などの後の投開票日までの選挙期間中に限らず、その前からテレビなどが時間を割いて大きく扱う傾向がある。

しかも、どちらかというと堅い傾向があるニュース番組や報道番組だけでなく、芸能人やコメンテーターらが好きに意見を言い合うワイドショー/情報番組、情報バラエティー番組などが率先して取りあげる。

理由は単純だ。これらの番組は視聴者の関心があって「見てもらえる」と判断したら、取りあげる傾向がある。報道番組ならば、今このテーマを放送することが社会の公共的な利益に資すると重要性を判断して放送するのに対して、情報番組の原理は比較的単純だ。視聴率が見込まれると判断したら放送する。それが情報番組などの常である。

TVメタデータを元に都知事選の告示前の17日間(1)と告示後の選挙運動が許可される17日間+7月7日の投開票日当日の19時55分前まで(2)と投開票日当日の7月7日19時55分以降の開票速報(3)、さらに7月8日から15日までの8日間(4)を分析対象とした。